薄紅色
「西丸ちゃん西丸ちゃん」
「…なんだ」
「構って」
「風邪引きが何言ってんだ」
「だってずっと横になってると暇なの。寝れるなら暇じゃないんだろうけど、色々へべれけで寝れないし」
寒気で上手く動かせない手に息を吹きかけては西丸に言う。
西丸はそれを無視して器用にも皮を綺麗に剥いて一口大に切った林檎をフォークに刺し、のほうに差し出した。
「ありがと、いただきます」
しゃく、と音を立ててがそれを食べる。
ぼんやり口をあけてそれを口に含む。
開いた唇は赤く、いつもよりとろんとした目は甘そうに濡れている。
西丸は自分の頭に描きかけた想像というか、妄想を頭を振って取り消した。
「にしのまるちゃん、も一個」
いつもより舌っ足らずで上手く発音の出来てない言葉に西丸は内心深く溜息をついた。
皿の上に数個転がっている一口大林檎の一つにフォークを突き刺すとまたそれをの前にやった。
「ほら」
「ありがとー」
また軽い、林檎のしゃくという音が響いた。
林檎を飲み込もうと上下するの白い咽喉に西丸は無意識の内に釘付けた。
自分の咽喉もごくりと上下するのを、西丸は感じた。
「も一個食べていー?」
「…ああ、」
西丸はまたフォークに林檎を刺して、の口許に運んだ。
しかし、うっかり林檎の果汁が口の端から溢れ出て、つつーと一筋線を描いた。
「うわ…西丸ちゃんごめんそこのタオル取っ…」
の言葉は最後まで紡がれなかった。
西丸の指がの首を伝った液体を掬い、下から上に首を撫で上げる。
そのまま残った液体は舌でぺろり舐め取って。
びくりとの肩がはねて、驚いたような目で西丸を見つめた。
「西丸ちゃん?どしたの?」
「いや、ちょっと…取るのめんどくて……」
しどろもどろ。酷く歯切れ悪く西丸は返した。
正直言った話、何故自分がこんなことをしたのかよくわかっていないのだ。
「それは横着しすぎだよー」
「……そうだな」
は笑いながらそう言った。
西丸が口の奥で「男心の解らん奴…」と呟いたのはには届かなかったのは幸か不幸か。
蒲団の中に手を突っ込んで、は縮こまった。
「…それよりも何か面白いこと無い?暇ー…」
「は寝ろ。一応38度5分あるんだぞ」
「熱あっても眠くないし…」
「それでも寝る。明日の朝もこんなんだったら病院に引っ張ってでも連れてくぞ」
「びょ、病院だけは勘弁して…!病院って言っただけで陰気になるよ…!」
言葉を無視し、西丸が乱暴にの体を布団の中に捻じ込んだ。
「痛い痛い!」と涙まじりにが叫んだが、西丸はそれをまたも完全に無視し、掛け布団をに掛けるとベッドサイドの椅子に腰を戻した。
むう、と不満たらたらと訴えてくる目の上にそっと西丸は手を置いた。
「寝とけ。楽になるぞ」
そう言って優しく頭を撫でた。
はその手に導かれるまま、そっと目を閉じた。
数分の沈黙の後、小さな寝息が西丸の鼓膜を小さく揺らす。
「…寝たか」
覗き込めば阿呆面引提げてすやすやと眠る少女。
一度眠れば夜中に外から時たま聞こえてくる大きな音がしようとも起きやしない。
西丸は小さく溜息をついて少女の頬の辺りをくすぐった。
「…みぃ…」
小さな身動ぎと、…恐らく、寝言。
「相変わらずの寝言だ」、と西丸は思った。…「昔っから変わらねえな」とも。
西丸はその眠る風邪引き少女を見て呟いた。
「…『冗談』じゃあないからな。これ以上煽るな」
寝ているの耳元でそう囁いて、ぽんぽん、と頭を撫でた。
そのまま髪を一房取るとそれに口付けてて、手を離す。ぱらぱら、重力にしたがって落ちていく。
「…さっさと治せ。話はそれからだ」
ばたん、扉が閉まる音がした。
はその音に身動ぎすらせずにぐっすり眠りの世界にいた。
…ああ、この言葉がに届くのは何時の事やら。
扉の外で西丸の溜息一つ。
の赤く濡れた唇を思い出してまた咽喉が上下した。
西丸はまた深々と溜息をついた。
…今日だけは勘弁しといてやるよ。だからさっさと風邪治せ!
2005/08/01
この方、どこの西丸さんですか!?
うーわー似非もいいとこ。本当にどこの西丸さんですか!?
違うんです、私の中の西丸さんは女の子の髪でもちゅーなんて出来ない子なんです…。
一応幼馴染設定。西丸さんは昔からヒロインさんがお好きだった模様。
まあ、楽しんでいただけたら幸いでございます。
この小説は、このサイトに来てくれた皆様と、リクエストして下さった諫早xie様へ!
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