はあ、膝の上の重みに溜息をついた。
ずしり、と意外と重い。全く、何が悪かったのかな……? と思うとまた溜息が出た。
読みかけだった文庫本に栞をはさんでぱたんと閉じ、右隣に置いた。


「…美濃ちゃん、私何かしたっけ?」


何時もすんきの傍らにいる、愛鳥美濃(種類は何だったっけ?)に話し掛けてみた。
返答はない、が。時々彼女(…彼、なのかな?)は日本語を理解できるのではないかと思うことがある。すんきの傍らにいて外来語について教えているんじゃないかと勘繰りたくなる。
今も首を横に振っているように見えるのは気のせいだろうか?
……まあ、有り得ないか。うん、ありえない。
自分をそう納得させて、美濃ちゃんの背中を撫でた。気持ち良さそうに目を細めてる。…見てて和むなあ。


「すんきおはよー。朝だよ……ってか夕方だよ」
「………?」
「あ、起きた?」
「…………」
「寝言ですか」


すんきの頬っぺたをうにうに突付きながら声を掛ける。
――ぷにぷにつるつる、まさにもち肌ほっぺ。すんきの肌は赤ちゃんの肌か、と疑いたくなるくらいに触り心地抜群。
なんかすっごい羨ましい。肌状態をキープする為に、私がどれだけの努力をしているか知らないで。…まあ、すんきは知る由もないだろうけど。
私は頬を突付く指を止めて、また溜息を吐いた。


「……好い加減、起きようよ。睡眠って7時間程度が身体に良いんだよ?」


つむじのあたりの髪の毛を指に絡めながらすんきに話し掛ける。……やはり、予想通り微動だにしない。
本当、好い加減起きてよ。そろそろ1時間は私の膝の上で寝てることになるわよ? そんな風に考えながら、ぐにーとすんきの頬っぺたを引っ張った。
あんまり強い力じゃないから、多分夢の世界にすら作用しないでぐっすり寝てるだろうね。
また溜息が出た。溜息のたびに幸せが逃げるって言うけれど、じゃあ私の幸せはいくつ逃げてったんだろう?
考え込んでいたら、私の足元に美濃ちゃんがぴとーと引っ付いてきた。
そして、くるんと丸まって、飼い主と同じようにぐっすりと眠りはじめた。


「……仲良いのねー」


美濃ちゃんとすんきを見ていると、なんだか起こそう起こそうとしていた自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。
ぼんやりと空を見上げれば、オレンジ色とか青とか、紺色とか。いろんな色を重ねたキャンバスみたい。
明るいオレンジがすんきの肌を明るく照らして、白っぽい肌が温かい雰囲気を醸し出してる。
自分の隣りに放置してた読みかけの文庫本をひょいと拾い上げて、栞をはさんだページを開いた。


「……すんき。寒くなっても起きなかったら、膝から落とすからね」


そう告げて、私は視線を文庫本のページに落とした。クリーム色のページが、ほんのり赤く染まっている。
……完全なる日の入りまで、あと何分?





2005/09/19
すんさんは台詞に悩みます。武士言葉を考えるのが苦手なので。
……と、言うわけで。すんきさんをぐっすりすやすや、寝かしてみました。
するとどうでしょう。ポンデライオンと同じくらいの難易度になりました。
台詞なしというのもどうにも難しいのですが、無理に台詞を考えて似非になるよりは幾分か良いです。
まあ、楽しんでいただけたら幸いです。
この小説は、きてくださった皆様と、リクエストして下さった胡椒さんへ!

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