雨の日の平日15時〜18時 公園の噴水での会話から分岐したIFイベントの妄想です。
自機PC夢主(高Submissive♀) 見た目はある程度お好みで
me for only you
ほんとはあなただけのわたしでいたいの
 ホイットニーが噴水の水底から誰かの願掛けの小銭を拾い上げた。皮肉げな表情。ホイットニーはひとりの時、ときどき、こういう顔をする。どうしたの、と聞いても、わたしには何も教えてもらえない。いつか教えてくれるといいのに、な。
 とりとめもなく考えながら、わたしも噴水の中に手を伸ばして――ずる、と身体を支えていた手が滑る感覚が、した。雨で縁がいつもより濡れていたのだろう。え、と声を上げる間もなく、水中に半身が落ちる。急なことに理解が及ばず全身が一瞬硬直する。上下がわからなくなる。――息ができない! もがきかけたところを首根っこが思いっきり引っ張られて、顔が水上に上がる。
「何やってんだ」
 明らかに馬鹿にしたような口調でホイットニーが言うが、今は完全に命の恩人の言葉である、甘んじて受けいれる他ない。返事をしようにもごほごほと咳き込んでろくな返事にならない。ぜえぜえ息を整えながら、噴水の縁に腰掛けた姿勢を安定させるように座りなおす。噴水の周りには降っている雨を遮るものは何もないけれど、もうすでに全身がびしょ濡れなので、もう気にしなくてもいいや。カーディガンどころかブラウスや下着まで濡れて身体に貼り付いている。
「手、滑った……溺れるかと思った」
 ようやく喋れる程度に呼吸が戻ったので返事をする。
「この深さでかよ。俺がいなきゃ死んでたな」
「そうかも。ありがとう……」
 ばくばくと跳ねる心臓を落ち着かせる。やっぱ水泳苦手だ……授業は一応ちゃんと出てるんだけどな、なんでだろう。
 ホイットニーが地面に落ちている傘を拾い上げて差しなおしているのが見えた。わたしを引っ張り上げるために一時的に手放してくれたみたいだ。やさしい。
「本当にありがとう、ホイットニー」
 もう一度お礼を言うと、ホイットニーが呆れた顔で息を吐いた。そして特に何も返答はくれずに、踵を返す。
「もう、帰っちゃう?」
 もっと一緒にいたいなあ。考えながら後ろ姿に問いかければ、ホイットニーは数歩先で立ち止まって、私を振り返る。雲で元々薄暗いのに、傘で影ができてなおさら表情が見えにくい。
「……付いてこい、アバズレ」
「うん」
「早くしろ」
 噴水の縁から立ち上がって、数歩先を行くホイットニーに追いつこうとする。
 動くと濡れた肌に風が当たって少し肌寒いな。と、考えたとたんにくしゃみがひとつ出る。素直すぎる体の反応を慌ててかみ殺したけれど、ホイットニーにはもちろん聞こえていたみたいだ。眉をひそめてわたしの腕を掴る。ぐい、と彼が差している傘の下にわたしも引き込まれる。
「どこ行くの?」
「いつもは聞かずについてくるだろアバズレ」
 正直なところを言うと、ホイットニーの取り巻きがいないからワンチャン教えてくれるかなあと思ったから聞いたのだけど、それを言うと逆鱗に触れそうな気がするので口を噤む。
「ごめんなさい」
 かわりに謝罪を告げたが、ホイットニーからの答えはなかった。彼はわたしの腕を引いたまま歩き出す。
 前にホイットニーに噴水に放り棄てられた時は、わたしのことを放置して公園から帰っていったから、不注意でわたし一人で落ちても無視されると思ったのに。いや、まあ、あの時と違ってわたしのことを「恋人」の枠に入れてくれたらしいので、扱いがちょっと優しくなった、のかな。……少なくとも、二人きりの時のホイットニーは、やさしい。いじわるはされるけど、優しくされてると感じることが多々あるので、ちょっとうれしい。……学校で会ったときは、普通に、あんまり前と変わらない虐められ方してるけど。
 二人でひとつの傘に入りながら、道を歩く。公園から商業地区の路地に入って進み、そのままコヌダトゥスストリートの方に向かう。わたしが昼間にお家に徒歩で帰るときと同じ感じの道順だなぁ、家に送ってくれてる? と思いながらホイットニーと歩く。彼からの言葉は特にない。わたしはと言えば、とりとめのない話題をいくつか挙げるのだけど、彼からの返答は鈍い。……公園で会話にならないときとおんなじだ。たまには静かでいたい、と言っていたのを思い出して、わたしもなんとなく黙り込む。
 掴まれたままの腕だけが、熱い。
 コヌダトゥスの大通りは、まだ日中だから行商人が並んでいる。今週はあんまり余裕ないからいいものあっても買えないなあ、とちらりと市場を見やる。
「こっちだ」
 腕を挽かれる感覚と声につられて顔を上げると、ホイットニーが顎をしゃくって大通りから一本入る道の方を指す。市場の屋台の方に気が取られていたようだ。ごめん、と告げてそちらに足を向ける。大通りは普通に何度も来たことあるけど、こういうサイドロードは歩いたこと無いかも。用事ないし。考えながら、慣れた様子で道を進むホイットニーに腕を引かれながら歩く。
 連立しているテラスドハウスの一つの前で彼の足が止まる。
「ホイットニーの家?」
「だったら悪いかよ」
「そんなこと言ってない」
 背中が押されて玄関ポーチの下に押し込まれる。雨が当たらない場所に来たついでに、水を吸って重くなったスクールカーディガンの裾を軽く絞ると、ぼたぼたとしぶきがたくさん落ちた。うーん、明日までに乾くかなあ。
 ドアの鍵を開けたホイットニーがドアに凭れて呆れた顔をする。
「早くしろ」
「あ、うん。おじゃまします」
 のろのろ玄関をくぐると、急かすように背中を押された。背中にホイットニーの気配を感じる。ばたん、と玄関の扉が閉まる。
 ホイットニーのお家、はじめて。見渡すのは失礼かもと思いながらも視線をうろうろさ迷わせかけたわたしのお尻が何の遠慮もなくべしっと叩かれる。振り返れば青筋を立てたホイットニーにもう一度おしりを叩かれた。
「ひぅ」
「見渡してんなアバズレが」
「……はい。ごめんなさい」
「よろしい。ここ」
 素直に謝れば、ぐいぐいと一つの部屋に押し込められる。いつも学校ならロッカーに押し付けられるみたいな感じだけど、背中が何かにぶつかって痛くなることも無い。押されてたどり着いたのは広めのバスルームだ。
「お風呂、借りていいの?」
「オレの気が変わる前にさっさとしろ、風邪ひかれても困る」
 タオルその辺の適当に使え、と指示がある。指の示す先を確認して、こくこくと頷く。
「あ、ありがとう。孤児院のお風呂覗き出るし落ち着いて入れないから嬉しい」
「見られんの好きだろ、アバズレが」
「嫌いとは言わないけど。お風呂覗かれるのは、なんか違う」
「ハッ」
「なんで鼻で笑ったの……」
「気が変わった」
「え?」
 ホイットニーはそれだけ言うと、手慣れた仕草で蛇口を捻ってそのままバスタブに湯を張り始める。
「あ、ホイットニーが先入る? わたしどこで待ってたら……」
「違う」
 ホイットニーの腕が伸びてきて、わたしのスクールカーディガンのボタンがひとつ、はずされた。
 ああ、気が変わったってそういうあれ?
 と思うものの、そういう雰囲気がホイットニーから感じられなくて、内心首をかしげる。いつもの、あの、意地の悪い感じがしない。ていねいに一つずつボタンを開けてくれているホイットニーの手を見下ろす。ホイットニーの大きな手がわたしの服の小さいボタンを丁寧に外してるの、なんか面白い。
 ボタンが外されたカーディガンを後ろに引っ張られたので伸びないように素直に腕を抜けば、ぽいと床に落とされた。ええー。いまのところわたしの唯一の防寒具だから少しくらい優しく……いや、まあ、破れなければ何されてもいいです。はい。買い替えという臨時出費さえ発生しなければ無問題である。普通に道歩いているだけでも変なちょっかいをたくさん掛けられるので、ほつれくらいなら直せるようにはなったが、破れるまでいくともうわたしには手に負えないので、まぁお洗濯と補修でどうにかなるレベルなら何されても問題はない。
「ホイットニー?」
 カーディガンの次はブラウスのボタンに手を付け始めたホイットニーの顔を見上げて名を呼んでみる。わたしを見下ろす彼の表情は、学校で会うときの彼のものとは、少し違うように見える。何を思っているのか知りたくて、じっと彼の青い瞳を見つめる。
「オレも入る。脱がせろ」
「うん」
 彼の言葉に従って、ホイットニーのシャツのボタンを一つ外す。ホイットニーは背が高いけれど、上までボタンを閉めたりしないのでわたしでも上のボタンに手が届く。
 反抗したらどうなるのか徹底的に教え込まれたわたしは、ホイットニーからの命令にはほぼほぼ反射で従って応えてしまう。売春宿やらストリップクラブやらで働いて色々見られてやらされてしまった結果、ホイットニーから命令されるえっちなことくらいなら抵抗がなくなったのも大きい。そこまで考えて、まだちょっとひりひりと痛む頬の文言に思いを馳せる。……これ《・・》は、正直けっこう抵抗あったけど、結局拒否はできなかったし、鏡で反転する文言を見てたらお腹がぞくぞくしてくるので、まあ、たぶん、本心ではいやではなかったんだろう。それに、今朝ホイットニーに髪を掴まれた時わたしの頬を見てご機嫌になって割と早々に解放されたので、魔除け……いや、おまじないくらいの効能はあっていいかもしれない、という認識になった。消すにもお金がかかるので、よっぽどのことがない限りこのままだなあ、これは。やっぱりお金は大事なので。
 ていうかボタンは全部外したけどどうしよう。顔を上げれば、ホイットニーと視線が絡む。どうしたら、という戸惑いが思いっきり表情に出ていたらしい。どうぞ? というように小馬鹿にしたような笑みを浮かべられる。望まれている通り、腕を伸ばしてシャツを脱がす。
「ハンガー……」
「いい、その辺落としとけ」
 皺にならないかなあ。わたしの制服よりいいやつなのに。とは思うが、ホイットニーの家を家探ししてハンガーを探す度胸はない。言われた通り、軽く畳んで足元に落とした。
 その隙を縫って器用にブラウスが脱がされて、カーディガンと同じように脱いだまま落とされる。背中にホイットニーの左腕が回ってブラのホックが外され、間髪を入れずに右手の人差し指がちょうど谷間の布を引いて身体から外されてぽいと放られる。胸の支えが無くなって、急な解放感。
 ホイットニーはわたしを脱がしていくことに一切の躊躇が無い。いや、まあ、学校とかでの彼のいつも《・・・》のふるまいを考えれば道理だけど。わたしは強制的に脱がされることはあっても脱がしたことは全然ないので、命令されているとはいえためらいがまだある。
 トラウザーズのベルトに手をかけて、視線だけでホイットニーの顔色を伺う。にやにやとわたしを楽し気に見下ろしている。わたしの躊躇をたのしんでいる様子だ。恐る恐るベルトの金具に触れて開けようとすればカチャカチャと聞きなれた音がする。脳裏に過ぎった感触に下腹が微かに熱くなりかけたのを振り払う。
 ……音聞いただけで思い出して身体が反応するのは、さすがに、パブロフの犬みたいでどうかと思う。自分の体内の熱を誤魔化すようにファスナーを下ろして下着ごとトラウザーズを下げると、下着の腰のゴムが彼の勃起した性器に引っかかった。
「ハ、積極的だな」
「ち、違う、言われた通り脱がそうとしただけ」
「どうだか」
 くつくつと笑われて、頬がかあっと熱くなる。思わずベルトから手を離して身を引きかけたタイミングで、ホイットニーにスカートのホックが外されてファスナーが下げられた。濡れて水を吸ったスクールスカートがずる、と床に落ちる。ああ、流石に、プリーツは形を整えたい。スカートを片手で床から持ち上げて、縦に畳む。ハンガーはたぶん出してくれないので、さっき脱がせたホイットニーのシャツの横に並べた。
「履いてんのかよ」
「? 何のはな……?! い、今から脱ぐからセーフ。セーフで!」
 一瞬何のことを言っているのかわからなかったけれど、学校で不定期にスカートの中を確認されて履いてるのがバレたら制服ごと没収されるのを思い出して慌てて言い募る。今週は孤児院の小ちゃい子にお金をあげちゃったから、ほんとにお金がギリギリなのだ。制服を買い戻す余裕はない。
 ホイットニーから次の言葉が出てくるより先に、高速でショーツを脱ぎ捨てる。
「セ、セーフだよね?」
「……アバズレのくせに色気のないストリップだな」
 いつものあれはどうした、と言わんばかりの口調である。
「速さ優先で脱ぎつつ色気も出すのは無理だよ……」
 私がそう返すと、ホイットニーに鼻で笑われた。
 ホイットニーはわたしに脱がせるのも飽きたのか、中途半端に脱いだ状態にさせてしまっていたトラウザーズと下着をさっと脱ぎ捨て、靴を蹴り上げるとざぶんとバスタブに入った。蛇口が閉められる。
「早くしろ、アバズレ」
 バスタブに背を凭れたホイットニーに呼ばれたので、靴下とメリージェーンを脱いでバスルームの隅に揃え、バスタブの方に歩み寄る。ホイットニーに「いい子だ」と首の下を擽られた。きもちいい。
 これ中に入れってことなんだよね? ちらりとホイットニーの顔色を伺うけれど、別段なんの応えもない。バスタブの縁を跨いで、身体を湯の中に滑り込ませる。ホイットニーとお風呂に入るとか、いつもなら普通に怖いと思うんだけど――今のホイットニーなら大丈夫かなあ、という気持ちがあって、そこまでは怖くない。
 ホイットニーと向かい合う位置に膝を丸めてちゃぷんと身体を沈める。思っていたより身体が冷えていたみたいで、あたたかいお湯に包まれると思わず息が漏れた。
「……アバズレ」
「なあに?」
「こっちだ。俺が脚伸ばせなくなんだろ」
 ホイットニーに腕を引かれて、脚の間に誘導された。思いのほか強い力にバランスが保てず、ホイットニーの胸板に崩れこんでしまった。
「鈍くさ」
 言葉のわりに、楽しげな声だ。……ご機嫌ならいいんだけど。引かれた手が離れて、わたしの頬の文字を親指でなぞられた。愉悦に細められた彼の片目と視線が絡む。
 どうして、そんなうれしそうな顔、するの。
 聞きたいのに聞けない言葉が浮かんで、のどの奥が苦しくなる。耳が熱くて、ホイットニーの目を見ていられなくなって俯いた。
 ……この距離で向かい合うの、普通に恥ずかしい。身体を回転させてホイットニーと同じ向きに身体を直し、彼の足の間で足を延ばすように座りなおす。恥ずかしさをごまかすように、えい、と彼の胸板に凭れかかる。
 あれ。何か言われるかと思ったのに、ホイットニーから何にも言われない。やっぱだめかな、と振り返って顔を確認しようとすると、両目が彼の大きな手で塞がれた。
「なんで目隠しするの」
「見んなアバズレ」
「ええ……今さらでは」
「黙れ」
 目隠しついでに振り向きかけた顔を元の位置に戻さんとばかりにぐいぐい押されて痛いので、諦めて前を向く。まだ手は目にかかって外れない。とはいえホイットニーにこうやって一時的に四肢や口の自由を奪われるのもなんだかんだ慣れてしまったので、あまり気にならない。
 普通にお風呂に入ってる時みたいに両手を組んで腕を伸ばす。ちゃぷ、とお湯の揺れる音がする。視界がふさがれているからそれ以外の感覚がちょっと鋭くなる気がする。
 そのまま、伸ばした足の脹脛に両手を滑らせて軽く揉んでいると、ホイットニーが目隠ししていた手をようやく外してくれた。
「今日。以降の用は?」
 髪が優しい仕草で梳かれて、耳を軽く噛まれた。心地良さに目を細める。
「今日は一回帰ってご飯食べたら……夜ちょっとだけストリップクラブでバーテンダーのアルバイトに行こうかなと」
 ストリップクラブはガードの人がいるから、VIP客にアプローチをかけずに一般客だけを相手取って働いていれば、だいぶ安全に働ける。逆に言うと、VIPに手を伸ばすとハイリスクハイリターンなのだけど、まぁ、今日はそこまではしない予定だ。平日だし。
 コヌダトゥスストリートは孤児院からも近いので、帰り道さえ気を付ければかなり安全な職場である。
「あ? 未成年働けんのかよ」
 しまった。入店時のチェックを偽装IDで誤魔化して働いているのをすっかり忘れていた。
「あの……あんまり大声で言えないやり方で働いてる……」
「ハ、度胸あんじゃん」
 ホイットニーがくつくつと笑う。……『何』をして年確を逃れているかについては深掘りせずに見逃してくれるらしい。
「――で? 俺のアバズレは金貯めて何すんだ?」
「ええ? お金なんて貯めてないよ」
「随分儲かってんだろ、アバズレ」
 ここで稼いでんだから、とホイットニーの大きな右手がわたしのおへその下をぐりぐり押す。ホイットニーの手で外から子宮が揺らされて、身体が跳ねる。作り変えられてしまったわたしの身体は、些細な刺激すら性的な甘い刺激と認知する。甘えるみたいな息が漏れる。
 お湯がぱしゃりと音を鳴らす。
「ぁ、ちが……ほんとにおかねためるよゆう、ない……ッ」
 快感を逃がそうと背を丸めかけると、それすら許さないと言うみたいにホイットニーの左腕で左肩が捕らわれて、背を反るよう強制された。ホイットニーに下腹を押されて子宮を直接揺さぶられる快感がダイレクトに背骨を登る。彼の肩に後頭部をこすりつけて頭を振って鋭い快感をやり過ごそうとすると、「へえ?」とわざとらしく吐息多めの声が耳に囁かれた。その新しい刺激に甘い快感が走り、視界がちかちかする。
 わたしの反応に満足したのか、下腹を押していた指が離れていく。安心する自分と、もっと欲しいとねだりそうになる内なる自分がいる。
 後者のわたしを無視して心の奥に押しやり、わたしは言葉をつづけた。
「孤児院の……ええと、いわゆる家賃? 払うので精いっぱいで、貯金できる余裕ほんとにない。今は週£2,000」
「……週? 月でなく?」
「うん。毎週」
 ホイットニーの言葉が途切れた。世間知らずのわたしでも「流石にこの急騰暴利では」って思ってたけど、あのホイットニーですら絶句するレベルらしい。
 とはいえ、孤児院を出るにしてもフラットシェアをできる宛がないし、そもそもこの辺に空き物件が全然ない。未成年者だから保護者なしで賃貸契約も結べないし、暴利でも甘んじて払って孤児院に居続ける他ない。ストリップクラブで働くために偽装IDをブライアに作ってもらいはしたけれど、これを公的な方面で使ってしまうのはたぶん晒し台では済まないタイプの犯罪だ。その辺もクリアできるやつ、とは言ってたけど、刑務所は普通にこわい。
 ちゃぷ、と音を立ててホイットニーの腕が湯から上がる。それを視線で追うと、彼は前髪をかき上げてそのまま顔ごと視線を天井に向ける。
「あー萎えた……」
「え!?」
 ホイットニーの言葉にびっくりして思わず声が出た。あの、いや、でも、わたしのお尻に普通に硬いの当たってる。
「……勃ってるよ?」
 お尻を縦に揺らして硬くて大きな陰茎を刺激する。一瞬だけホイットニーが息を呑んで、深々と息を吐く。
「止めろアバズレ。肉体の話じゃなくて気分の問題だ」
「気分……?」
「黙ってろ。お前にわかるとは思ってない」
 そう言ってホイットニーの手がわたしのお腹の前に回る。また押される? いやでも、気分じゃないって……と考えていたら、そのままお腹の前で手が組まれてホールドされる。
 やっぱりそういう気分じゃないらしい。ときどきホイットニーに釘刺されるやつだ、ハロウィンのときとか覚えがある。別にわたしだっていつも欲情してるわけじゃないのに、きっとホイットニーはそんなの信じてくれないだろうな。ただ少しの刺激でそういうスイッチがすぐ入っちゃうだけなのにな。
 ホイットニーはそういう気分ではないけど、わたしをお風呂から追い出すつもりもないみたいだ。わたしをホールドしたまま、つむじに顎が乗せられる。暴力も性的な刺激も伴わないホイットニーからの接触は、なんだか不思議な感じがする。でも、それがどうしてかうれしい。お腹の奥の方で蝶々が羽ばたくみたいな感覚がする。
 そうっとホイットニーの手をなぞる。ぴくりと彼の肩が揺れたけど、制止されないので手を重ねてみる。
「手、おおきいね」
「……そうかよ」
「いいなあ」
 背中にホイットニーの温かくてかたい筋肉がある。彼の温度に包まれるのは、なんでか、落ち着く。学校で彼に見られると、悪い意味でどきどきそわそわぞわぞわするのに。今は、安心する。どきどきは、いまも、普通にしてるけど。学校で会う時のそれとは、違うやつだ。
 ……公園で会った続きだからかなぁ、落ち着くの。公園で会うホイットニーと話すのが、好き。ふたりきりで話すからかもしれない。
 彼の体温とお湯のあたたかさに包まれながら、そうっと瞼を下す。
 きっとホイットニーがこんな風にしてくれるのも、今だけだ。
 わたしは本当は大事なものはずっとかくして自分ひとりのものにしたいけど、ホイットニーは自分のものだと見せつけて誇示するみたいなセックスばかりするし、わたしを他人と共有することも構わない……っぽそうに見える。聞いたわけではないけれど。まあ、他の人に書かれたわたしの腿の落書きを擦って消したりするから、独占欲が無いわけではないのかもしれないけど、どういう意図のふるまいなのかは、わたしにはちょっとわからない。
 いまのわたしはホイットニーの恋人もとい”お気に入りのおもちゃ”だろうなって思うけれど、気に入られているわたしの性のふるまいは間違いなく「そうやってお金を稼がなきゃどうにもならないから」わたしが適応して後天的に「そうなった」結果でしかなくて、もしこの先真っ当にお金を稼ぐ手段が見つかったら、きっと元に戻る。定着しない。
 ホイットニーにはわたしの他にも意地悪をする対象が複数いて、ホイットニーの欲望に本当に合致する、彼にとって最も勝手のいいおもちゃ《・・・・》が、いつかきっと現れる。現れてしまう。
 そうなったら、わたしがホイットニーのものになった時みたいに、一方的に放り投げられて手放されてしまうだろう。拒否権はわたしにはない。ずっと、ずっとそう。
 だから、せめてそれまでは。いまだけでも、この暖かさに、ずっと包まれていたい。考えながら、彼の腕に浮いた血管をたどる。
「わたし、この手、好きだなあ……」
 とぷん、意識が、落ちる。
 ――手だけかよアバズレ。という甘やかすみたいな呆れ声と、額に何か柔らかいものが触れる感触がした気がするけれど、まあ、きっと、わたしの願望なんだろうな。
write:2024/05/24
雨の日平日の15-18時ホイットニーくんの家に連れ込まれて甘イチャセックスするイベントくださいという願いの結晶
最近「Degrees of lewdity」という日本語訳のない英語エロゲにド嵌りして、日本語二次創作の少なさに絶望して久々に筆を執りました。