放課後の図書室で『友達』を引き連れていないホイットニーに絡まれるイベントの妄想
自機PC夢主(高Submissive♀)想定ですがお好みで。
あまり直接的な表現はないですが普通にセックスをしています
me for only you
ほんとはぜんぶおしえてほしいの
 放課後の学校の廊下は、まだ最後の授業が終わってすぐなこともあって、大分活気に満ちていた。ぼうっと人並みを眺める。まだ孤児院に帰りたくないけど、用事も特にない。……ちょうどいいや。今日の授業の復習してから帰ろう。
 人の流れに逆らって、図書館に向かう。放課後まで図書館にいる人は、いないとは言わないけどそこまでは多くない。人がたくさんいるとテーブルを見つけるのも一苦労なので、それくらいが正直ちょうど良くて助かる。図書室に入れば、ちらほらと本を読んでいる人影がある。ついでだし、何かいい本あったら借りようかな、と新刊の平置き棚を覗く。
「やぁ。放課後に読書?」
 あまり心が惹かれるものは無いかも、と考えていたら、後ろから声が掛かった。振り返れば、シドニーがカウンターの中からわたしの方にゆるりと手を振っている。いまは彼も暇らしい。カウンターに近寄った。
「ううん、復習してから帰ろうかなって」
「勤勉だね」
「そうでもないよ。授業だけじゃ理解できないだけだもの」
「そのままにしない辺りにきみの性格が出てるよ」
「なあにそれ? わたし、けなされてる?」
「いや、褒めてるんだよ。何かあったら声をかけて」
「ありがとう」
 カウンターの向こうで手を振ってくれたシドニーにこちらも手を振り返して、奥の方にあるテーブル席に向かう。この席は穴場だ。個室ではないけど人目がなく、誰かに邪魔されることはほとんどなく読書ができる。ただ、ちょっと薄暗くて、なぜだか妙に音がそとに響く一角ではある。本を読みたい人には暗さゆえに敬遠されて、人目をはばかって逢瀬を楽しみたい人には音が筒抜けだから敬遠される。そして、奥まっているから図書室をあまり利用しない人はそもそも存在自体を知らない。なので、誰かと勉強するときは避けるけど、一人で自習するならとっておきの場所である。孤児院の灯りがこれくらいなので、私は暗さはあまり気にならないし。
 とはいえ、ここの席でない場所で自習をして不良に絡まれたとしても、図書室での自習は正直かなり気楽だ。孤児院の自室もプライバシーを確保してリラックスできる場所だったけど、「もらえない」「受け取れない」と断ったはずのプレゼントが知らない間に自室に置かれていてからはそうとも思えなくなってしまった。院の子供たちに「誰が置いてくれたか知ってる?」と尋ねても誰が置いたのかわからなかったのだから、侵入にしろ誰かを懐柔したにしろ、純粋に恐怖である。それ以来、自室なのに『いつ知らない人が入ってきてもおかしくない』という意識が常にあって、それなら絶対誰か来るとわかっている場所の方がまだ気楽だと思うようになってしまった。正直、部屋でリラックスしている時に不意に怖くなる時すらある。招いていない人と部屋でかち合ったら怖すぎる。ちなみにこのプレゼントを部屋に残しておくのは微妙だし、かといって流石に捨てるのもためらわれ、興味深そうにそれを見てきた孤児院の小さな子に渡してしまった。季節外れのプレゼントに無邪気に喜ぶ顔に罪悪感がわいたが、喜ぶ人のところにある方がいいだろう、と思うことにしている。――いや、これ以上この話題考えるのやめておこう、心労がたまるだけだ。
 穴場席にはやっぱり誰もいない。細く安堵の息を吐く。本棚の向こうに人の気配を感じながら座席に腰掛ける。バックパックから教科書とノートを引っ張り出して机に広げる。とりあえず朝一の化学から進めよう。シリスの説明を振り返りながら教科書に視線を滑らせる。
 ――集中。


「ああ、やっぱり。聞こえてなかったね」
「え?」
 不意に肩を叩かれて間の抜けた声が出た。同時にかけられた声をかみ砕く。シドニーの声だ。顔をあげれば、シドニーが苦笑しているのと目が合った。ぱちぱちと目を瞬いていると、「そんなに難しい問題だった? 寄ってるよ」と眉間を柔らかくなぞられた。
「シドニー? どうしたの?」
「閉館時間のおしらせだ」
「うそ」
「嘘は言わないよ」
 反射的にそう返したが、シドニーは眉尻を下げて困ったみたいに笑った。
「そ、うだよね。変なこと言ったね、ごめん」
「はは、いいよ」
 筆記用具をペンケースに入れてから、伸びをする。肩からぼきぼきと低い音が響いた。
「……すごい集中してたみたい」
「だろうね? 肩に触れるまでも何回か声かけたよ」
「それは……苦労掛けました、ありがと」
 教科書をバックパックに戻しながら時計を見上げる。……閉館時間をちょっとすぎている。シドニーはカウンターに戻って閉館作業を再開せずにわたしの作業を待ってくれているようだ。ああ、待たせてしまっている。
「ごめんね、ぎりぎりまで居座っちゃって」
「別にいいよ、ついさっき返却された本の処理もあるからもう少し居るし」
「あれ、返却って閉館10分前までの受付じゃ――」
「陰でこそこそ俺の話をするなんていい身分になったもんだな、アバズレ?」
 不意に。するり、と肩に第三者の腕が回った。血管の浮いた、固い腕。え、と振り返ろうとした顎が、肩の腕とは逆の手に乱暴につかまれて、反射で体が強張った。硬直していると、チッと聞きなれた舌打ちの音が聞こえて、乱暴に顎をつかんできた手の人差指が擽るようにわたしの下顎のラインをなぞる。その仕草に強張った緊張が微かにほぐれる。……嗅ぎなれてしまったホイットニーの煙草と香水の匂いを、ようやく嗅ぎ取った。
「きみ、まだ帰ってなかったのか」
 シドニーが驚いたように言う。シドニーが言いかけた『ついさっき返却された本』を返したのがホイットニーなのか、とぼんやり思う。
「居ちゃ悪いか? ここも学校の施設だろ、なあ?」
「……放してあげなよ」
 シドニーの言葉を無視して、ホイットニーがわたしの肩に回した手にギリギリと圧を掛けてくる。痛みでちょっと呻いたけれど、誰の笑い声もしない。……あれ? いつもだと、わたしが痛がったりするとそれを揶揄するような楽しむような第三者の笑い声がするのに。ホイットニーに気取られない程度に、周りに目を凝らしてみる。彼がいつも学校で引き連れているおともだち、というか取り巻き? は見当たらない。そもそも図書館にここにいる三人以外の人の気配がない気がする、先に玄関まで降りてるのかな。
 顎を掴んでいた手が離れる。内心で息を吐いたが、依然として肩に腕が回って掴まれているので安堵なんてできるはずもない。そのまま開放してもらえるのかと思っていたところに、肩に回った腕ごと引き寄せられて上半身が傾いだ。慌てて身体のバランスを保つ。おたおたと体のバランスを保とうとするわたしを丸無視して、ホイットニーはわたしを引きずるように歩き出す。なに、どうしたの。尋ねようと、ホイットニーの顔を見上げて、思わず息を飲んだ。表情がない。……無感情、とは質が違う。はたから見れば「肩を抱いている」と呼べそうな行為なのに、肩を掴むホイットニーの手があまりにも痛いから、全然、そんなふうには呼べない。
 ……いつもと、ちがう。
 呆然と思う。見せつけるためにわたしを痛めつけてるわけじゃない。いつものいじめと、目的が違う。理由はわからないけどおこってるようにみえる。それも、ものすごく。
 刺激するのはまずい、と反射的に思って、まだ背負っていなかったバッグパックに腕を伸ばして掴む。どこに連れていかれたとしても、かばん……というより中の財布さえあればどうにかなる。バックパックを背負う余裕なんてあるはずもなく腕に抱え込んで、たたらを踏みながらもホイットニーの歩みに追いつくと、シドニーと視線が合った。怯えと心配の入り混じった顔をしている。わたしに対するホイットニーの暴虐に介入できないことを気に病んでいるように見えた。
「シ、ドニー。……また来週」
 だから、ひらりと指先だけを振って声を掛けた。いつも図書室に寄ってから帰る時と同じように。気にしなくていいよ、という気持ちを込めて。シドニーが詰めていた息を吐いたように見えたので、ちょっとだけ安心する。
 けれど、その安堵も、わたしの後ろ――というより身長差で概ね顔の位置は真上とも言える気がする――から聞こえたホイットニーが舌を打つ音で冷水を掛けられたように萎びてしまうのだけど。わたしがとろくさく挨拶してるのが気に食わないのかもしれない。だいじょうぶ、ちゃんとついていきます。心の中で呟いて、ホイットニーが肩をぐいぐいと引くのに素直に従って歩く。
 図書館から出て廊下を歩く。階段は素通りしたので、どこか学校の外に連れていかれるわけではないらしい。ホイットニーの取り巻きは先に玄関に行ったのかと思っていたけれど、違うみたいだ。どこかの空き教室にいるのかな、いやでも廊下に人の気配まったくないし……やっぱり、今日はひとりなのかな。
「学校でひとりなの、珍しい……ね?」
「煩い。黙れ」
「……うん」
 恐る恐る尋ねてみたが、ぴしゃりとシャットアウトされた。口を噤んでホイットニーに肩を導かれるまま歩く。……やっぱり、怒ってるのかな。でも、昔いじめに抵抗したときに見た怒りの表情とは違って見えるから、怒りとラベルを付けるのもなんだか違う気がする。じゃあ何なのか、と問われても、うまく言葉にできないけれど。
 人気のない廊下に、靴の音はよく響く。会話がないのだから、なおさら。ホイットニーと二人で学校にいるのは、なんだか変な感じだ。ホイットニーと二人で会うことは、あんまりない。二人で会う、と言えるのは、雨の日の放課後に公園くらいだと思う。あとは、夜にパブで偶然会って、ホイットニーの気が向いてわたしを送ってくれた時、とか。少なくとも、学校で二人きりはほとんどない。不思議だ。
 ぼんやりと考えていたら、ホイットニーの膝で背中とおしりの中間あたりを軽く蹴られた。勢いはついてなかったから痛くはないけど、急な衝撃に肩が跳ねる。
「な、なに?」
「そこだ。開けろ」
「……ここ?」
 ホイットニーが顎をしゃくって示すのは数学の教室だ。鍵は特段掛かっていないので、ホイットニーに言われた通り扉を横に引く。開けたよとホイットニーを振り返ると、彼は特に何も言わずに背を押してくる。言ってくれればいいのに、と思いながら素直に教室に入る。ホイットニーとわたしで取っている授業が殆ど違うけど、唯一重複するのがこの教室で行われる授業なので、ホイットニーと一緒にここにいることそれ自体はそこまで違和感がない。とはいえ、人がいないだけで、なんだか少し印象が異なって見えた。
 ぴしゃり、と音を立てて教室の扉が閉められた。その音に思考から意識が戻る。ホイットニーを振り返ろうとしたその瞬間、背中を強く蹴られた。衝撃で手に持っていたバックパックを取り落とす。よろめいて一番近くにあった机にしがみついたら、そのまま肩をぐっと押されて、机に上半身をうつ伏せの状態に押し付けられた。
「いい身分だな、アバズレ」
「……あの。何の話?」
 首だけで振り返る。強い力で肩を抑えられているので、首以外では振り返ることができなかった、といった方が正しいけれど。言葉の経緯が全くつかめなかった。
「ハ、流石アバズレ。人様の機微がわからないんだな?」
 それ、ホイットニーが言うの? と思わず内心で反論する。心の中にしまっておいたが、不満が顔に出ていたらしい、ホイットニーは片眉をあげた皮肉気な表情でわたしを見下ろした。眉がかたどる表情は皮肉気なのに、眼そのものからは感情が読み取れない。まるで、わたしが内心を推し測るのを拒絶してるみたいな――突き放すような、目だ。
「ホイットニー?」
 恐る恐る名前を呼ぶと、ホイットニーの皮肉気な表情がほどけて消えた。けれど感情の読めない目はそのままだから、ふつうに心配してしまう。
「……ま、そういうやつだよな、俺のアバズレは」
 ぐり、と下半身に熱いものが押し付けられる。読めない目とは裏腹の熱。
 いじめの一環で一方的に嬲られるときも、あまり機会は多くないけれどふたりきりで互いに触れ合うときも、どちらのときも欲望がともなっている。周囲への誇示か互いへの慰撫か、意図が違うだけで。
 だけど、今の彼の目に欲の色は見当たらない。どういう意図を以て触れてきてるのか、わからない。怒りに似ているけれどどこか違う感情を湛えているのに、わたしのスカートをたくし上げて素肌に触れる手つきが優しいからあたまが混乱する。
 声が漏れそうになるのを唇を噛んでこらえながら、ホイットニーの顔をちらりと見る。ねえ。どうしてそんな顔してるの。なにを考えているの。
 ホイットニーはわたしに本音なんて滅多に言ってくれないから、全然彼のことを推し量れない。彼の本音らしい本音なんて、雨の日の放課後の公園でしか聞けない。しかも、一言二言……というより、本音の一部だけ、という方が正しい。もっと知りたいのにな、という気持ちは言えずにわたしの中に淀んでいく。学校でそんな会話できないし(というかたぶん話しかけても普通に無視されるか押しのけられる)、会話ができる少ない機会である雨の日の放課後は、いつ雨が降るかは神のみぞ知るのでわたしにわかるはずもない。
 わたしの思考も心配も気にした様子もないホイットニー(まあいつも通りなんだけど)が、おもむろにわたしの肩を抑えていた手を放した。逃げる様子も抵抗する様子も無いから抑える必要が無いと判断したのかもしれない。
 ルーブのボトルから直接冷えた潤滑剤を陰部にたらされて、冷たさに身体が震えた。間髪入れずにホイットニーの長い指が膣口に滑り込む。ぬち、と音を立てて彼の指が中で動く。彼の骨ばった指は性感を高めるためというより潤滑剤を塗りこめるための動作をしているけれど、ホイットニーはわたしを隅から隅まで虐め尽くした男なので、わたしがどこに弱いのかを把握している。いいところをわざと指の関節が掠めるたびにわたしの熱は容易くあがる。
「……ぁ、ホイットニー」
 愛撫に震える声で名前を呼ぶ。――返答は案の定なかった。
 膣から指が引き抜かれる。ホイットニーはいつもみたいに雑にわたしのスクールカーディガンで手を拭う。カチャカチャとベルトの金具を外してトラウザーズを寛げたホイットニーが、するすると手慣れた仕草でコンドームを付ける。ホイットニーはわたしに無体を働く割にコンドームは絶対つけてくれるから優しいよなあ、とぼんやりと思う。思った後で、本当に優しかったら学校でいじめなんかしないか、と考えを取り消した。これちょっと麻痺してる、あんまりよくない、流石にわかる。
 ぐっと両手で腰――骨盤を掴まれて下半身を持ち上げられる。足裏が浮いて、殆どつま先立ちになる。ホイットニーとわたしは男女であることを差し引いても身長差が大分ある。女性の平均より低めのわたしと、男性の平均からだいぶ高めのホイットニー。もちろん腰の位置もホイットニーの方が高い。ので、このままこの体位でするとわたしはだいぶ無理な姿勢をすることになる。後ろからじゃなくて前からにしたいと思ったけれど、「いま」の状態のホイットニーを刺激するのもちょっと微妙だ。いつもだったら、仕草で伝えればわたしが姿勢を整えるのを待つなり手伝うなりしてくれるけど、今のホイットニーがどういう態度に出るか判断がつかない。……別に行為そのものが嫌なわけではない、ので。このまま敢行するしかない。
 メリージェーンのつま先が床を蹴って身体が安定しないので、身体を支えるために上半身を伏せて机にしがみつく。それとほぼ同時に、先端が膣口にあてがわれる。数回揶揄うように先端だけ出し入れされて、ぷちゅ、と濡れた音がする。……これ、潤滑剤の音だけじゃない。恥ずかしさで耳が熱くなった。焦れて思わず腰が揺れる。それに気づいたのか、ホイットニーが浅く笑う。
「流石はアバズレ、準備万端だ」
「……ぁ、……ッ」
 嘲るような言葉とともに太くて長いものがわたしの奥深くに一気に挿入ってくる。快感に流され一突きで絶頂しそうになるのを必死にこらえて、内腿と足先に力を籠める。ふるえる吐息をかみ殺しながら息を吐けば、クーイングにも喃語にも近い、言葉にならない声が漏れる。……あついものが、お腹の中にある。
 ホイットニーはわたしに挿入したまま、より動きやすいようにか腰を掴む手の位置を調整する。四本の指が薄い腹に沈んで、骨盤をより強く掴まれた。その指の感触すら脳髄に直接電撃を差し込まれるような快感を憶えてしまうのだから――わたしの身体は本当に、もう、始末に負えない。掴まれた腰にねじ込むように彼の腰が押し付けられ、わたしの膣の奥を押し広げる。ぐり、と奥のいいところに圧が掛かって、息が詰まる。
 わたしがはくはくと息を整えるのをちらりと見降ろして、ホイットニーはゆったりとしたペースで腰を動かし始める。ゆるゆる焦らすみたいな腰使い。もどかしいけれど、こういう、浸るような快感は心地がいい。とろとろ快感のプールに漂ってるみたいな、そんな感じ。
 甘い靄がかかったみたいな視界で、ぼんやりとホイットニーを見上げる。やっぱりホイットニー、いつもと違う。いつもはこんな緩やかなスピードのストロークで動いたりなんかしないのに。わたしはこういうじわじわ気持ちよさを重ねるセックス好きだけど、ホイットニーはどうなのだろう。彼のセックスは、いつもなら、欲望の色がもっと濃密で、貪欲に登り詰めることを考えてるように見える。……いましているのは、いつものとは、全然違う。
 ホイットニーは、いま、きもちよくなれてるのかな。
 急に不安になって、きゅう、と中を締めつければ、ホイットニーが息を詰めた。
「クソ、」
 吐かれた彼の息に熱が篭っているので、内心で安堵する。良かった、と内心で思いながら、より中を締めようと内腿に力を籠め――
「い゛゛っ」
「あ?」
 たところに、急な激痛が走った。
 左の脹脛の激痛に反射で声が上がる。あ。これ、足、攣った。床を踏ん張れない。
「ま、待ってホイットニー、止めて」
 慌てて制止を掛ける。いたすぎる。ちょっとむり、これ、いたい!
「ぁ? 流石に今止められるかよ」
「おねが、一回腰止めて、いたいっ」
「今日はだいぶん優しくしてんだろが」
 行為自体は確かにひどくはされてないけれど、始まるまでの経緯がわたしには「どうしてそうなったのか」全くわからない。彼の考えが読めないのは、普通に不安だ。
 わたしの「痛い」が癪に障ったのか、ホイットニーがわたしの腰を掴む力が強まる。さっきまでの緩やかなグラインドではなくて膣奥に亀頭を無理やり叩きつけるように腰を突き上げられた。もはや反射みたいに身体が快感を拾い上げるので脳が痺れて声が漏れる。一瞬快感に流されそうになって、そして間髪入れず激痛を訴える左足に理性を取り戻す。慌てて半身だけ振り返り、首を振って制止する。
「ぁ゛、いッ、ほんとタイム、脚……ッ」
「脚?」
「あし攣ったの、ぉねがい、まって……」
 わたしの言葉に、ホイットニーのピストンが止まった。た、助かった、と思うものの、脚の痛みは収まらない。机にしがみつく力を強くして、痛みを紛らわせるように机の表面に爪を立ててみたが何の意味もない。気なんてまぎれない。
 痙攣って何したら治るんだっけ、ほんとにいたい。ちょっといっかい休ませてほしい。こんなになるなら、さっき刺激するかもってためらわないで、体位変えたいって言っておくんだった。どう考えても、挿れた後に一旦止めるほうが悪い刺激だ、機嫌を損なう。
「こっちか」
「ぃぁ、いたい……」
 わたしの腰を鷲掴みにしていたホイットニーの左手が腰から腿を滑り、脹脛に触れる。痛みは一向に強いままだけれど、へたに開発された身体はこの肌をたどる手つきにすら快感を拾ってしまう。痛みに快感が上乗せされる。快感と痛みのどちらもが同時に背骨にぶち込まれて脳が混乱する。
 痛みと快感をやり過ごそうと全身に力を入れると、ホイットニーが短く息を飲んで舌を打つ。
「……チッ、運動不足かよアバズレ」
「い゛ッ、……ホイットニーの身長が、たかすぎるせい……」
 ここまで派手に身長差が無ければこの体位でもこんなにつま先の先端で立つ必要はなかった、と抗議したが、ホイットニーはわたしの言葉を特に気にした様子はない。……まあ、わかってたけど。少なくとも、学校での彼とわたしの関係はいじめっ子とターゲットだ。わたしの言葉を聞く道理なんてない。――学校で、というより、周囲に人目がある時は、の方が正しいんだろうな、とは薄々気付いているけれど、それには触れられずに口を噤む。
 何にせよ、ホイットニーにとってのわたしはオモチャでペット。それ以上にはきっとなれない。
 ペットが相手だから、ホイットニーは、何にも言ってくれない。
 痙攣している左足首を掴まれて、持ち上げられた。脚が持ち上がるのに従って腰が抵抗もできずに半分起こされて姿勢が変わる。ホイットニーの手がメリージェーンを脱がせて、足を掴んで脛の方に足首が伸ばされた。ああそうだ、こむら返りのときの対応こんなだった気がする。
「ッた゛ぁ」
 伸ばされる足首がもたらす痛みに思わず呻いた。これは痙攣の痛みではなく、単純なストレッチの痛みだ。
「汚ェ声だな」
「ひっ、ひどい゛! ほんとにいたいんだってぇ゛」
「あーはいはい、悪かった」
 わたしの抗議を雑な謝罪であしらいながら、ホイットニーは無遠慮に足首を伸ばしてくる。伸ばしてくれるのはありがたい、けど、もうちょっと、もうちょっとだけ優しくしてほしい、というのは我がままなんだろうか。……なんだろうな、ホイットニー的には。
 痙攣する脚を無理に伸ばされる痛みがだんだん軽くなってきた頃、ふいにホイットニーに顔を覗き込まれた。青い瞳。
「……おさまったか?」
 視線が合ったまま、平坦な声で尋ねられた。痛みはだいぶ引いた。軽く動かす分には問題はない、と、思う。無意識のうちに首が縦に動く。
「ぁ、うん……だいぶ……」
 答えると、覗きこまれていた顔が離れていって、先ほどまで激痛を訴えていた脹脛を彼の親指でなぞられた。背筋に一瞬甘いしびれが走る。机に伏せてしがみついていた上半身をのろのろとあげて、そのままホイットニーのものを抜こうとすると、頭が押さえつけられて机に逆戻りした。わたしの左足が彼の左肩に担ぎ上げられる。
 なんで? と頭だけ後ろをみれば、口の端を釣り上げてホイットニーが笑うのと目が合った。図書室で会ったとき――ここで、セックスを始めたときと、表情が違う。と、いうより、明確に欲が滲んでいる。え、まって、いつのまに? なんでそんな凶悪面を――
「ひ、ぅ……なんでぇ……?」
 緩く腰が揺すられて、ホイットニーの先端が、降りてきた気持ちいいところをゆるりと撫でる。その感触で、足の痛みで一旦知覚の他所に追いやられていた性感が一気に押し寄せて身体ががくがくと震えた。この体勢、さっきより、深いとこに、当たる。
「この俺がアバズレの言うこと聞いて中断してやってたんだ、」
 わかるよな? と耳に吹き込むように囁かれたので、反射で一つ頷いた。頷いてから、彼の言葉の意味をかみ砕く。なるほど、わたしは『STOP』のつもりだったけど、ホイットニーは『PAUSE』と認識してたらしい。
 ……いや、まあ、挿入までゆるしておいて出す前にもう終わろう、は冷静に考えると酷なことを言っているのは流石にわかる。脚が痛すぎてそこまで意識回ってなかった。ごめんね。
「うん」
 身体を起こして、彼の首筋に甘えるみたいに額をこすりつける。重くて甘い匂いに、脳が痺れる。痛みが引いてみれば、わたしも、からだの奥にくすぶらせていた火に意識が向く。燃え上がる。――もっと、ほしい。
「もう大丈夫だから、」
 好きに使って、ね。
 わたしの言葉を聞いたホイットニーが、にやりと笑うと腰を突き上げてくる。机にしがみつきながら、動きに合わせて、彼が気持ちよくなるようわたしも骨盤をグラインドする。
 口からこぼれる呻くような吐息を、わたしに覆いかぶさるように腰を曲げたホイットニーの唇が奪う。
 わたしを見るホイットニーの瞳孔は大きく開いていて、瞳には興奮の色が映っている。わたしをこの教室に押し込んできたときの彼の瞳にあった何もかもを拒絶するような色がないことに安堵する。時間が薬になっただけかもしれないけれど――わたしの何かが、ホイットニーを癒したんだったらいいのになあ。
 考えながら、ホイットニーのキスに応えて舌を絡める。絞められてるわけでもないのに酸素が足りなくて頭がくらくらするけれど、最早それが気持ちいい。嚥下しきれない唾液が口の端からこぼれて顎を伝っていく感触すら、甘く脳に響く。
「ぅ、ン……ぁ、もっと……」
「はッ、欲しがりすぎだろ、アバズレ」
 キスの合間にねだってちうと彼の舌を吸えば、ホイットニーの目の欲望の色が一等濃くなる。欲情してるって、一目見ただけでわかる表情。彼の舌を細く尖らせた舌先でねぶれば、その舌に甘く歯を立てられる。痛みはない、戯れるだけの甘噛み。その感覚に視界が白む。
 机にしがみついているわたしの右手が、ホイットニーの大きな手に覆われた。逃がさない、というように強く押さえつけられて、指の付け根を爪でなぞられる。
 舌も指も、別に性感帯ではないはずなのに、こんなふうに甘やかすみたいに触られていじめられると脳がとろけそうなほど気持ちいい。ぱちゅ、ぱちゅ、とホイットニーが腰を打ち付けるたびに引っ切り無しに鳴る水の音にお腹どころか耳まで犯されてるみたいで、脳髄が焼き切れそうなほど興奮する。
「、まって……ぁ゛、きちゃう……ッ」
 明白にいつもより絶頂に近づくのが早い。どうして、と一瞬だけ考えて、脚を痛めていたあいだじゅう、ずっとホイットニーのものが中にあったことを思い出す。痛みで表層上の意識ではそれどころじゃなかったけれど、身体はずっと、焦らされていたのかもしれない。爪が白くなるくらい机にしがみつけば、ホイットニーが浅く笑うのが聞こえた。
「おら、イっちまえよ」
「あ、……っ、ぁ……!」
「……くッ、」
 耳朶に湿った熱い唇が触れて、吐息交じりに耳の直接に囁かれた――それが最後の一押し。激流のような感覚に打ちのめされて、全身が絶頂に震える。快感にからだをふるわせながらも、必死に声をかみ殺すことに成功した。さすがに、いくら人がいなくても学校で大きな声は出したくない。
 絶頂に震えるわたしの身体の最奥に、ホイットニーの亀頭がぐりぐりとねじ込むように押し付けられる。そうして、彼の陰茎が震えて、薄いラテックス越しに射精されたのだと感じ取る。もしナマだったら、子宮にこうやって注がれていたんだ、と思うと頭がぼうっとして身体がもっと熱くなる。絶頂した直後の荒い息のまま、そうっと腹の上から中をなぞる。別に、直接出されたわけじゃないのに、おなかがあたたかい、気がする。
 ホイットニーの肩に持ち上げられていた左足が解放されて、続いてずるりと陰茎が引き抜かれる。急な喪失感に背筋が震えた。――なんか、さみしい。脳裏によぎった言葉をかぶりを振って見ないふりをする。
 久し振りに両足を床につけたものの、まだ足の力だけで立てる気がしない。やっぱ無理な姿勢だったらしい。上半身を机から離してずるずると床に座り込む。机に背を預けるように体勢を変えて寄りかかる。ふぅ、と息を吐いて呼吸を整えながらぼんやりとしていると、ホイットニーがコンドームを雑に結んで教室の隅の屑入れに放り込んでいるのが視界に入る。……流石に、教室のごみ箱に捨てるのはどうかなぁ。シリスなら問題なさそうだけどリヴァーの教室だし、ここ。使用済みの避妊具なんて見つけたらあの人、ぶっ倒れちゃうんじゃないかなぁ。まぁ、トイレの自販機で買えるものだし、学内で使用されるのも想定内でしょう、たぶん。
 床の冷たさが火照ったままの思考と体をかすかに冷やす。机に寄り掛かりながら、服を整える。やっぱり、今日のホイットニーは、いつもと違った……な。スクールスカートのプリーツを整えながら考える。彼は(そしてざんねんながら、わたしも割と)露出の気があるので、いじめの一環でもそうでなくても大概服は基本全身乱されるのに(そう、授業中に口で咥えるよう強いられる時ですら)、今日は下半身の着衣しか整える必要が無い。かなり早急だった。こんなことで「いつもと違う」と認識するのも、ちょっとどうかと思うけど。……それでも、ホイットニーに元気がないのは嫌だし、何か悩んでるなら話を聞きたい。解決への道しるべにはなれないかもしれないけど、寄り添いたいとおもう。……彼はそれを、わたしには求めないかもしれないけれど。
 床に座ったまま、ちらりとホイットニーの方を伺う。わたしはホイットニーの私生活のことをほとんど何も教えてもらえないから、どんな表情も見たことがあるだなんて言えないし、どういう表情のときに彼が辛いのかも、全然把握なんてできない。けど、それでも、少なくとも今のホイットニーはいつもと変わらない顔に見えるので、ちょっとだけ安心する。彼の心が荒れているのは、わたしの学校生活の平穏にも良くないし。ホイットニーは身支度をそうそうに終えて、教室の扉に背を預けて立っている。わたしが身体を整えるのを待ってくれてる、らしい。学校なのに、セックスのあとわたしを置き去りにしていないのは珍しい。……やっぱり、ふたりきりの時の彼は、ちょっとだけ、優しい。
 脱がされた靴を履く。落としたバックパックを引き寄せて、のろのろ立ち上がりながらそれを背負う。
「トロい」
「脚痛めた後だからちょっと遅いのは許してよ」
 深々と溜息を吐いて、ホイットニーが扉を開ける。わたしをちらりと見て「先に出ろ」というように顎をしゃくるので、それに従って廊下に出た。ぴしゃりと教室の戸を閉めたホイットニーがよどみのない足取りで歩きだす。それに一歩だけ遅れて、わたしも後を追う。ホイットニーの歩くスピードは、いつもよりちょっとだけ遅い気がした。
 階段を下って、職員玄関の鍵を内側から開けて外に出る。そのままホイットニーの足は正門の方に向かう。……ああ、でも、たぶんいまは。声をあげるより先に、気付いたらホイットニーのシャツをつまんでくいと引いていた。
「まって、ホイットニー」
「あ?」
「……たぶん、もう正門の鍵、締まってる。鍵開け得意?」
「めんどくせえな……」
 そこで言葉を止めたホイットニーが立ち止まる。
 ちらりと意味深に見下ろされたので、なに? の意図を込めて彼を見上げたが、ついと視線がそらされて彼は歩くのを再開した。この向きは……後庭かな。
「後庭の抜け道通るか。アバズレがよく使う」
「しっ……てたんだ?」
 後庭の抜け道は、正門で待ち伏せしてる不良集団を見つけて、向こうがわたしの存在に気づいていないときに通る緊急避難経路なので。わたしがそこを使って帰ってることを待ち伏せてる側に知られているとは思っていなかった。
「やっぱ校門で見ねえ日はアレで帰ってんのか」
「……いまのブラフだった?」
「さァな。ま、今後もそっちは張らねえから好きにしろ」
 わたしの反応を見下ろして、ホイットニーがにやりと笑った。ホイットニーがそう言うってことは、まあきっと本当なんだろう。公園で会うときも、今日の夜はパブには来ない方がいいとか、天気が悪い日に出歩くなとか、こまごま忠告してくれるし。
 後庭を縦断する。昔と違って、後庭は大分過ごしやすく整備された。ただ鬱蒼としていた樫の木の周りの野草も丁寧に刈られて、生徒にとって絶好の昼休憩を過ごすスポットになった。この整備された後庭の隅に、木々に紛れて公園へ繋がるトンネルへの入り口が隠れている。
 ホイットニーは淀みのない足取りで入口に向かう。ホイットニーも知ってたんだ、ここ。
「――雨の日は俺も使うから、せいぜい周りに見られないようにしろよ」
 静かな声が、落ちてくる。
 ホイットニーも、この道は誰にも見られたくないときに使うらしい。はじめて知らされた意外な共通点に無意識のうちに頬が綻ぶ。彼の心の端のほんの僅かを、みせてもらえたから。胸が、いっぱいになってしまう。
「うん、わかった」
 公園までの道のりを、ふたりで、歩く。いつか横に並んで、手をつないで歩けたらいいな、と、ぼんやりと思った。
write:2024/07/07 up:2024/07/08
ホイットニーさんはゲーム本編もこの作品でも、自分の知る範囲で自分が許可を出した人間と
セックスしてるのはニヤニヤ視姦して楽しむ程度に容認しているけど、
それ以外の相手とのセックスにはバチバチに嫉妬するタイプだと認識してる。
所有欲が強いんでしょうね、Whitney owns you. ってくらいだもの、ふふ。
何とはいいませんが、MCもホイットニーも結果として焦らされてるので、二人ともまあまあ早いです。
ホイットニーさん歴史取ってるか怪しいんだけど取ってるってことにしてください。
ナチュラルに煙草を吸わせようとしちゃったんだけど、流石に屋上でしか吸わんかな…と思ったので控えました