痛々しい傷痕の下辺りを指で押した。
傷の持ち主は大層痛そうに呻き声をあげた。

私は小さく溜息をついて、包帯を巻く手の動きを早めた。










  003.銃創にキス










!もっと優しく出来ないん?痛くてトチ狂ってしまいそうや!」


騒がしさを右から左に流して包帯を巻き終える。
また私は小さく溜息をついて、傷口の上を軽く叩いた。
叩いたといっても傷には響かない程度の柔らかい優しい叩き方。
まあ銃での怪我に慣れていないつこみだったら結構痛いんだろうけど。


「痛…っ!」
「つこみにしては珍しいわね。銃撃戦に参加しているなんて」


そういう場には連れて行かれないあんたが傷作って帰ってくるなんて。
そんなニュアンスで言ったのだけれど、つこみはそれに気付かなかった。
ああ、どうしてつこみはこんなに純粋なのだろう。
この場にいることが不釣合い。この血腥い空間が彼とは不釣合い。


「偶然やってん」
「たまたま通りかかったの?」
「せや。偶然て怖いんやなあ」


つこみは笑った。
普通はこんな怪我をすれば笑うどころじゃないだろうけれど、それはここのお家柄。
防衛の手段として拳銃を隠し持っている生活送ればこうもなるわね。


「…その傷は掠っただけだし、多分痕も残らず治るわ」
「ほんまに?」
「まあ予測だけど十中八九は治ると思う」
「そら助かるわ。この珠の肌に傷が残ったら敵わんもん」
「あっそ」


つこみの戯言に私は切り捨てるように返答した。
どう反応するべきなのかわからなかった。
それに、私には銃弾の傷痕がある。結構ど派手にドンパチやったときの、真新しい傷痕が。
傷口は塞がっているし、普通にしていれば痛くない。(強く押したりすると流石にまだ痛いが)
けれど、その傷は恐らく消えない。消えない傷が私の二の腕にある。


「…?」
「え、あ。…何?」
「なんか俺、言うてはならんこと言うた?」


的を得た言葉はまるで真っ直ぐに的を捉えた矢のように私の心を射抜く。
まるで冷水を浴びせられたかのようで、私の心は凍りついたかのような錯覚を覚えた。
冷えた目でつこみを睨み付けそうになるのを私は理性で押し止めた。


「言ってない、気にしないで」
「嘘や。、明らかに空気変わっとる」


ああどうして。どうしてつこみはこんなときだけ聡いの?
いつもみたいに周りの空気を読まずにずんずん突き進んでくれれば私もこの感情隠せたのに。


「…知りたいの」


突き放したような言い方だったと思う。
苛立ちを覆い隠そうともせずに言ってしまった。
つこみの目が驚いたように見開かれて、おずおずと少し力無く頭が縦に頷いた。
私は袖を捲ると自身の腕に巻いた包帯を解いて見せた。
つこみの目が一層大きく見開いた。


「…さっきつこみ『珠の肌に傷が残ったら敵わない』って言ったでしょ」
「言った…」
「この銃創は絶対に消えないから、ちょっと頭にきただけ。それだけよ」


つこみの顔が申し訳無いと言わんばかりに歪んだ。
別にそんな顔しなくて良いのに。ただ軽い冗談のつもりだったんでしょ。
気に負う必要なんて更々ないわよ。

つこみの手が私の腕を掴む。
まるで細いガラス製品でも取り扱うかのように優しい手付きで。
つこみの頭が項垂れた。


「……すまん」
「別に、大丈夫だって言ってるでしょ」
「ほんますまん……」


つこみの唇が銃創にそっと口付けた。
まだピンク色で肌が突っ張っているような傷に、天に祈りを捧ぐ正教徒がするような口付けを。
感覚があまりないはずの肌から、つこみの唇の感触が感じられた。


「許して…嫌いにならへんで……頼む…」


つこみの唇は縋るように銃創に口付ける。

銃創の脇に、つこみの瞳から落ちた雫が一つ落ちた。





2005/05/01
あはは、必殺気になるところでカットの術!冗談です。
小説っていうのは脳内での想像力が勝負だから、先を想像する自由があると思うんです。
だから私の小説は尻切れトンボなんですとか適当言います。ごめんなさい。
このタイトルは入善くんしか思いつかなかったけれど「じゃあ同じ感じの家柄つこちゃんで!」。
…安易安直にも程があってすみません。
楽しんでいただければ幸い。

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