何かが歪んで、割れるような錯覚を感じた。
今まで絶対的に信じていた何かが音を立てて崩れ、組み替えられていく。
そのことに言い知れないショックを憶え、私の視界は歪曲した。
涙で滲んで、ぼやけて消えた。
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4.色情狂
…どうしてこうなったんだろう。
でもそんなこと考えるのも億劫だし、考えたくもない。
考えてもきっと結論なんて出ないから。
ぼんやり、私に体重を掛け馬乗りになっている人に視線をやった。
「…ウェン、」
声を無理に絞り出してみた。
今にも消え入りそうな声だ、と我ながら思うほどに小さな声だった。
けれど、その声にウェンの肩がぴくりと反応して、そっと私の目を覗き込んだ。
「放してくれる?」
「嫌だ」
「私もこのままは嫌よ」
そう言えばウェンはつまらなさそうに私の髪を一筋とって口付けた。
わざとらしく音を立てて、表情は如何にも楽しそうで。
私はそんなウェンをただ睨みつけるだけだった。
「…良いじゃん?俺のコト好きだし」
「笑止。一方的な感情だけで自分を動かさないでもらえる?」
その言葉を発すれば、ウェンの顔が何かで歪められた。
唇を噛んで、悔しそうに歪められた顔は滅多に私に見せない表情だった。
滅多に見ない表情に私も一瞬戸惑いそうになったけれど、戸惑っている場合じゃない。
戒められた手首にじわり痛みが広がった。
ああ、そっか。ウェンの手の力が、少し強くなったんだ。
「は、グレイが好きなんだよな」
酷く冷えた突き放すような声色で、ウェンが私に問い掛ける。
ちくり痛みが広がるような気がした。
手首を押さえつける力は弱くもならず、まだじわじわ痛みを倍増していく。
「そうよ。グレイのことが好き」
…どうしてウェンがそれを私に聞くの?
私がグレイのことが好きだ、と気づくことになった切欠のあなたが。
そう思ってウェンのほうを見上げれば、彼の口許は笑みの形に歪められていた。
それは、どこかが歪んでいると思わせる笑みだった。
「でも、グレイは絶対にのこと好きにはならない。だろ?」
ああ、どうしてそんなことを言うの?
いつものウェンなら、そんなこと決して言わなかったのに。どうして?
けれど、そんなことわかっている。
いつもいつもグレイといる時にひしひしと感じていたよそんなこと。
「…わかりきったこと言わないで」
そう切り捨てるかのように私が言うと、ウェンの眼光が鋭くなった。
手首の痛みが殊更に強くなって、私が一瞬目を瞑ると、首筋に噛み付かれたような痛み。
びくり肩を揺らしてウェンを見上げれば、頬に雫が一つ落ちた。
逆行で顔は見えないけれど、泣いているということは明らかだった。
「どうして俺じゃないんだよ……」
低く囁くように言われた言葉は、震えて掠れ空気に融けて消え入った。
2005/05/02
私もね、もう少しぐらい救いのある話にするつもりだったんですけど。
だけど気付いたら片想いの一方通行恋愛。
ウェンさん耐え切れずに行動に出るもヒロインからは拒否される。
…ああなんて可哀相なのかしらウェン・ユンファ!
ウェンのまともな恋愛も書けません私には。グレイに次ぐ難しさですね。
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