氷が融けて、カラン、ガラスが鳴る。
それは二人が暫し膠着状態で動いていなかったことを示す。
私は目の前で申し訳無さそうに、所在なさそうに座るすんきに視線をやった。
まるで窺うようにこちらを見る視線。
私より大きいはずのすんきは今だけは明らかにあの頃のまま、幼いままだった。
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5.唇から覗く舌
「…大変申し訳無い…」
「別に良いって何度も言ってるじゃない。気に病まないで」
「しかし…」
すんきは項垂れて私に謝罪を述べている。
よくもまあ舌を噛まないなあと感心するほどに立て板に水状態だ。
ついさっき、すんきが転倒し、持っていた麦茶をまんま頭からかけられました。
すんきは右膝だったか右足だったかを怪我しているから、転ぶのは仕方が無いことだと思うわけ。
服も洗濯して乾かせば普通に使えるんだから、困りもしない。
それに着たまま放置しておいても平気だと思ってた。
けどすんきは慌てて私を脱衣所に押し込んで、着物も一緒に押し込んできた。
「か、かかか風邪を引くで御座るよ!」
なんて酷く狼狽して、顔を赤くしながら。
「転ぶのは仕方ないことなんだからそんなに自分責めないでよ」
「しかしが風邪をひいてしまうかもしれないでは」
「すんきが服貸してくれたんだから大丈夫よ。髪は濡れてるけど放置しとけば乾くし」
まあ、ブロー取れちゃうのは困るけど…それは家に帰ってからし直せば良いだけだし。
本当にどうってこと無いのに、すんきはとても申し訳無さそうに私の顔色を窺っている。
私はそんなに顔と心中が一致していないように見えるのか。
「…まだ納得いかないなら、今度私に日本史教えてちょうだい」
「へ?」
「それで今回私にお茶ぶっ掛けたこと無しにしてあげる」
「それは真でござるか?」
「うん、こんなときに嘘なんて言わない」
そう言えば、すんきの安心したようなほっとしたような顔が見て取れた。
…感情すぐに顔に出るから読みやすいよね。
いたって純粋。何をどう間違えて育ったのか時代逆走してるし。
「では次の休みに教えたく思うのだが…」
「土曜?わかった」
すんきが安心したような表情を浮かべ、氷が融けて水しか入っていないコップに麦茶を注いだ。
ごくり上下する咽喉が予想外に白くて少し驚いた。
その予想外な白さは目の奥に焼きついて、私は無意識の内に口の端を舐めていた。
「…?」
その声、言葉に誘われるように身を乗り出し、そっとすんきの左頬に右手を添える。
驚いたように瞬かれる目がそのまま私を煽る。
私が今着ているすんきの匂いがする和服の裾が座卓にはらり落ちた。
そのままそっとすんきの赤い唇に唇を近づける。
見開かれたままのすんきの目を見たのを最後に、私は目を瞑りそのまま顔を寄せた。
囁くように言葉を呟いて。
「好き。すんきが好きだよ」
2005/05/03
どうしよう顔からハイドロポンプと火炎放射同時に出せるくらい恥ずかしい…!
色々とですね、もうはいどうしましょうで…。
すんさんは好きって気持ちあっても無自覚なんだと思うんです。
私がそうだと思いたいだけなのかもしれませんが。
ちなみに、すんさんがヒロインさんを脱衣所に押し込んで着物渡したのは
下着が透けてたからという秘密設定があったりします。予想簡単につきますが。
まあ楽しんでいただければ幸いです。
あ、この小説は誰もどこも狂ってないように書けた!
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