…静かな夜。
深い漆黒の空は見るもの全てを引き込むようだとすら思える。
遠き過去に輝いた光によって彩られる空は見るものを引き込み惑わすような。








月明りふんわり落ちてくる夜は









みゃあ、
いつもと同じはずの猫の鳴き声。
でも何かいつもと違うような、そんな気がして、屈んで猫の頭を撫でた。


「くろいの…どしたの?」


またくろいのがみゃあと一鳴きした。
もし、くろいのが日本語を理解していても私には猫語を理解する手立てがないから、どこがいつもと違うと感じたのか考えながら頭を撫でた。
何が私にそう感じさせたのかはまったくわからなかったけれど。


「んー、気のせいかな?…じゃあね、くろいの」


そう言って立ち上がって、くろいのを見下ろすと、目が金色に輝いていた。
…え、ちょっと、何で?
困惑しながら、ひょいとくろいのを抱きかかえて持ち上げると、瞳の色はいつもの通りだった。


「あれ…?確かに金色に見えたんだけど…これこそ気のせい?」


目線の高さと同じくらいまでくろいのを持ち上げて問い掛ける。
みゃあ?とくろいのが私に呼応した。
やっぱり気のせいだったのかな…。でも確かに金に見えたし…。


「……?」
「え?あ。はとばさん」
「まだ帰ってなかったのか」
「ああ、はい。ちょっと…」


はとばさんに話し掛けられて、そっちを向くとくろいのが私の腕から逃げ出して、はとばさんの肩に乗った。
…本当、にゃんこに好かれてるんだなあ、はとばさん。
確か小学校の時、猫を代わりに入学式に参加させたんだよね。
ひなじくんに見せてもらった年表にそう書いてあった。


「…、早く帰ったほうが良い…」
「んー、そうですね。はとばさん、また明日」


はとばさんに軽く会釈する。
――もういい時間だし、早く帰って宿題とか色々しなくちゃ……。
半ば駆け足になろうとしたそのとき、はとばさんに肩を叩かれた。


「…送る…」
「え、いえ結構です、だってはとばさん逆方向じゃ…」
「この時間の一人歩きは危ない…」
「いえそうですけど、」
「…人の厚意には甘えておけ」


そう言うとはとばさんは私の返答もお構いなしに私がいつも帰る方向へと進んでいった。
……私の遠慮も聞く耳持たずですか。
まあ、悪い気はしない。……というよりむしろ嬉しいけれど。


「…じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」


そう言えば、はとばさんの表情がほんの少しだけ、わかりにくいけれどしてやったりといった風に微笑まれた。
はとばさんの表情が変わるなんて結構珍しいもの見ちゃったかもしれない。

特に話すことも無く、ぼんやりと道を歩く。
でも、この沈黙は決して居難いものではない。居心地のいいような、そんな感じ。

何かに誘われるかのように上を見上げれば、そこには丁度満月。


「…わ、すごい満月…!」
「そうだな…」


いつもより、強く存在を示す月。
淡い月光は太陽の光とは違う柔らかさがあると思う。
歩みを止めて、上を見上げる。
まるで、黒いビロードの上に置かれた輝石のような月は、そこにいた。



「はい?」
「……」


右手が、はとばさんの左手に包まれる。
そしてそのまま私の手を引いて、はとばさんが歩き始める。


「…はとばさん?」
「…………」


はとばさんは何も言わずに歩いている。
平然としたような表情だけど、頬っぺたがちょっとだけ赤いのが見える。

月明りと街灯で、幾つもの影が出来る。
影の中ででも、はとばさんと私の手は繋がれている。

…私も気恥ずかしくなって、はとばさんと繋がる手をきゅっと強めた。


家まであと100メートルぐらい。
……それまで、この温かさを。





2005/04/13
はとばさんと手を繋ぎたかったんです。
正直それだけの夢でした。くろいのと満月の話は…膨らませる上で必要だっただけ。
満月は人の心を惑わせるってよくいいますよね。
この話には一切合財関係ありませんが……。
あー、やっぱ私はとばさん大好きです。
最近気付いたんですけど私がはとばさん夢書くと絶対さん付けですね。

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