「かいちょ、何してるの?」
「んだことにしゃに関係ありゃしません」
「あるよ、だって俺、今日授業サボって保健室で寝るんだもん」
保健室のカーテンの奥で俯いてたここバルヨナのドンとも言える会長、会津誉氏。
なんか暗そうだからって話し掛けてみればいつもと同じような憎まれ口。
にこやかに「サボるから」なんて言ってみれば、呆れたような白い目で見られた。
でも、なんか顔が暗いんですよ、誉さん。
はじまり?
「誉さんもサボり?珍しーね真面目そうなのに」
「だから俺の名前はオクラほまミキサーです」
「気にしない気にしない。そんな小さいこと気にしてたら将来禿げるよ」
誉さんから言われるお決り文句をこれまたいつもと同じように返してベッドの中にするするもぐりこむ。
保健室に持ち込んだ鞄を誉さんの座る座椅子の横に置いた。
誉さんがじと目でこっちを見てきたけど無視して、ベッドの蒲団に身体を埋めながら鞄の中をあさる。
中から適当にポテチのファミリーサイズを引っ張り出して誉さんに差し出す。
「食べない?」
「いらない」
「嫌がらないでよ、一応誉さんのためにやってんだし」
「しかしいまいち信用ならないのでいりません」
「あ、誉さん『ん』がついたよ」
「!…しりとりなんてしてませんー」
誉さんの言葉は無視してポテチの袋を開けた。
誉さんに袋をずいと押し付けると、怪訝そうな顔をしながら仕方無しにひとつ食べてくれた。
多分溜息ついてる。顔が呆れ顔だし。
「そだ、誉さんお茶飲む?」
「玄米茶けろ」
「あるよ、ちょっと待って」
我が鞄はつこみに「お前の鞄は四次元ポケットか」と言われるほどに大量のものが入っている。
その殆どがお菓子食べ物なのは流石にどうかとは少しは思ったりするが。
「にしゃ、も少し危機感持っだらどうなんです」
「危機感?なんでそんなものを持たなきゃならないのさ」
玄米茶を渡し、自分ものほほんと午前の紅茶を飲んでいると、誉さんが意味のわからないことを言い出す。
なんで、とただ問い掛けるような視線を向けると誉さんはあからさまに溜息をついた。
一体なんなの!
「にしゃほんでも一応女なんですから、ちょぺっとは気を付けたほうがいいですよ」
「一応って酷いよ誉さん」
周りを憚るような小声でだったけれど、誉さんはそう言ってくれた。
その発言に、ああ、と納得したように手を叩いた。
「ああ、cox-baxみたいな状況になったら本当の性別ばれるぞって意味か」
「………んだな意味です」
誉さんはもう普通にポテチを食べてる。
さっき遠慮していたのは嘘みたいに、まるで自分のものを食べているかのように見えるほどだ。
この人、肝据わってるなあ。
「おーお前らめちゃくちゃ寛いでるなー」
「あ、みなちょん?お部屋借りてるから」
「見ればわかるって」
保健室に行きたくなくなる先生の異名を持つ保健室の持主、未来皆人参上。
と言っても今までの経験と放送部の仲間との事で気にもしない。
誉さんも全然気にしてないし。
「ごっつおうになりました」
「え、誉さん食べるの早いし」
気付けばファミリーサイズのポテチはもう空袋だ。
こっちもちまちま食べてたけどこれは明らかに誉さんばっかり食べてる。
…ああ、でも、誉さんの顔、さっきみたいな暗い顔じゃない。
ん、なら、良いか。
「次は何食べる?」
「お煎餅食いっち」
「煎餅?いっぱいあるよ、ハッピータ○ンでしょ、ぽたぽた○きでしょ、普通の草加煎餅と」
一袋一袋誉さんの横に出していく。
誉さんは慣れたのか気にせずに煎餅の袋を開けて普通に一枚勝手に取って食べたけど、みなちょんは驚いたような表情で我が四次元鞄を見た。
「――そんなに入るのか?」
「うん。みなちょんも食べなよ。あ、ちょっと誉さん俺それ好きなんだから独り占めしないよ」
「やんです」
「ひどい、それ俺のなのー!俺の実費で買ったものなのー!」
「わがったわがった、食わっせ」
「誉さんありがとうー!」
誉さんが少し笑って――しかも珍しく邪気無く――煎餅を渡してくれた。
あー嬉しい。煎餅の片隅を齧る。みなちょんも煎餅を美味しく頂いてるようだし。
出した煎餅の袋三つが全部空になった頃、軽やかなチャイムの音が響いた。
呆けて上を見上げながら最後のひとかけらを口に放り込んだ。
「さてお前ら、もう教室帰れよ」
「ええ、今日は一日保健室でサボるつもりだったのに!やだーせめてあと1時間だけ!ね?」
「ダメだ、もう教室行け」
「いーやーでーすー」
「かいちょー、こいつ連れて帰ってー」
一瞬、誉さんが「何故俺が」と言った表情をしたのが見えた。
でもみなちょんが誉さんに何か耳打ちして、誉さんは仕方無しにこう言った。
「…わかりました、失礼します」
「ええ、ちょ、誉さん、首、首絞まりますからそんなとこ持ったら」
ずるずると引き摺られるような感じで保健室から連行される。
みなちょんの爽やかな腹黒いほほえみがとてつもなく見ていて苛々する。
今日一日サボりプロジェクトが、まっさらな白紙になってしまった。
ああ、つこみの子守りとノマルの胃の心配とカロが変なやつに絡まれないかの監視と…目まぐるしくなるな。
「ありがどがすおざりやす」
「……え?」
「じゃ、俺はこっちですから」
そう言って踵を返した誉さんの後ろ姿を見ることしか出来なかった。
えっと、あの、誉さんが。意地っ張りの、プライドの高い、口の悪い誉さんが。
…お礼、言ってくれたの?
「…どういたしまして、誉さん!」
だんだん小さくなる誉さんの背中にそう叫ぶ。
誉さんは振り向いて少しだけ微笑んでまた歩いていった。
何でなのかわからないけれど、心拍数が上がった。
2005/01/16
書きたかったものは誉さんがお礼を言うところ。あ、本当ですから。
一緒にサボるって言うのも魅力的な設定。
男装してバルヨナに入学して、誉さんは知り合いで正体ばらしてます的な設定。
何より福島弁が難しい難しい。ふくしま弁コンバータが無ければ本当に大変でした。
会津誉さんラブ。
あ、みなちょんに耳打ちされたことはこんな感じかも。
「お前も、危機感持たれる立場なんだろ?」こんなのかもー。
…もっと良い発言ないものかな。
つうか名前変換が一切無くてごめんなさい。