桜の元、舞い散る花弁









「今日も戦争みたいだったね」
「そうだな。お前2回も人波に呑まれかけたし」
「あははははは」


西丸ちゃんとタイムセールに行った帰り道。
どこだかのおばちゃんたちが群がる中、めちゃくちゃ頑張って安い商品を勝ち取りました。
…まあ幾つか負けたわけなんですけど。
だって、あんな中自分の目的のもの全部勝ち取れたら神だよ絶対!居たら尊敬するよ。
おばちゃんとかより身長高い西丸ちゃんでさえ勝ち取れなかったりするんだから。
かくいう私はおばちゃん達の波に呑まれちゃうくらい身長が低いので、西丸ちゃん程の身長が羨ましい。
でも、西丸ちゃんに言わせれば「高くてもそんなに良いことないぞ」なんだとか。
まあ全く贅沢な発言だこと。


「今日は目的の品全部買えた?」
「2つ買えなかった」
「なに言ってるのさ。私4つも買えなかったよ」
「いや、買えなかったやつどっちもたからの食えるやつでよ…」
「あららそれは大変だ」


たからちゃんは西丸ちゃんの弟くんの内の1人で、最近好き嫌いが増えつつある。まあお年頃だもんねえ。
だから、たからちゃんの食べられる野菜は常にストックしておかないといけない。
その野菜のうち2つも買えなかったとなるとかなり大痛手だろうなあ。

まったり世間話とかをしながら道を歩いていると、ある花が目に留まった。


「西丸ちゃん西丸ちゃん」
「だから、ちゃん付け止めろって」
「そんなことどうでもいいから見て見て」
「ん?」
「ほらあの木、桜咲いてる」


存在を自らアピールしなくとも存在感のある桜の木を指で指した。
西丸ちゃんの視線がその桜を探すように動いて、ある一点で止まる。
ほお、と驚きの息が聞こえた。


「…もう満開だな」
「ほんとだ。桜って綺麗なピンクだよねー」


2人で桜を見ていたら、ふっと何かの小説のフレーズを思い出した。
梶井基次郎さんの「桜の木の下で」の1フレーズ。
この部分はきっといろんな人に好かれて、そこだけなんか一人歩きしてるような感じがするのは私だけかな?
桜は木の下に死体が埋まっているから赤い…とかいう聞いた人を驚かせるような。
その血を吸い上げてるから赤いんだとか。
まあそんなのありえないと思うけれど、あの綺麗さは人の死が絡んでいるのではないかと思わせるほどの神秘性があるんだろうなあ。


「『桜はその木の下に埋められた死体の血を吸って赤い』って感じの言葉あるよね」
「そういう話は止めてくれ…頼む…」
「怪談話じゃないよ。もし、その死体がタコの死体だったら桜って青くなったと思う?」
「はあ?タコって血ぃ出すのか?あれ軟体だから血無いんじゃねーの?」
「生物たるもの血液なしには生命の維持ができません」


いやもうこの辺の知識の無さは流石バルヨナ生といって良いものか悪いものか。
いえ言いませんよ。いったら西丸ちゃんに打たれそうだし。
私は小さく溜息をついてタコについて説明をはじめた。


「人間の血が赤いのは何でなのか覚えてる?」
「ヘモグロビンがあるからだろ?」
「うん。それだけ覚えてれば上出来かな。ヘモグロビンの中に鉄があって、それが酸素と結びついて酸化鉄になるから赤いの」
「酸化鉄…?」
「鉄が錆びたってこと。でもタコは銅と化合したヘモシアンが流れてるからちょっと青がかってるの」
「へえ…」


西丸ちゃんは本当に感心したように溜息をついた。
あのさあ、確かバルヨナって水産高なんだよね?これって良いの?ねえ。
暫し考え込んでいると、西丸ちゃんは何か疑問に辿りついたようだ。
何か考え込んでいる。


「何か疑問あった?」
「いや、タコの血が青いってのはわかったけど俺見たことないんだけど、タコの血」
「えっと、可視光線ってわかる?」
「さっぱり」
「んー、じゃあ…タコの血の色は人間の目では認識しきれない色だってことで覚えとけば良いんじゃないかな」
「それで良いのか?」
「それで良いよ。細かいこと説明するのも面倒だし」


風が吹いて、桜の花弁が幾つか舞った。
私はそれを見て小さく微笑んだ。
桜の花弁がふわり私の頭に一枚落ちて、西丸ちゃんが呆れたように笑ってその桜の花弁をはらった。


「この桜が青だったら…」
「?」
「そんなに綺麗だ綺麗だって持て囃されなかったんじゃねーの?」
「ピンク色のほうが綺麗ってこと?」
「そうだな」


またゆっくりと家に向かって歩き始めた。
風と共に舞う桜は本当に綺麗で、ずっと咲いていれば良いのになんて無理なことを考えた。


「今日晩ご飯何にしよっか?」
「たからが食えるもん考えるのも一苦労だな」
「そういうこと言わないの」


風が吹く。桜が舞って踊る。
その景色は、本当に綺麗で言葉なんて思いつかないくらい。
ただそこにいるだけでそこが華やかになる、そんな。


。明日、花見でも行くか」
「…ほんと!?西丸ちゃんのご飯大好きー」
「俺が弁当作るのか…?」
「え、だってほら、今日の晩ご飯は私作るから…」


吹く風は、優しく通りを撫でる。
吹かれた桜も、これまた優しく風に乗り風を舞う。
鮮やかな桜は、春の景色。

欠かすことの出来ない、季節のしるし。





2005/05/21
私のお隣のうちの桜がまだ咲いてないんです。
私の住んでる都市の開花宣言は…出たのかな?…ああ。まだ出てないのね。
桜はやく咲いてください。そんな思いを込めて書きました。
この小説について言い訳するならお二人は幼馴染です。
ノマルさんちは父子家庭でヒロインさんちは母子家庭という裏設定あり。
傍目にはもう夫婦なお二人ですが当人達は気付いてないんです。

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