疼く傷に滴るアカイロの
自らの手首を縛める縄の先――政宗の手首の自由を奪う縄を引いて、光秀は嗤う。ぎちぎちと鳴る音も、縄に擦れて痛い己自身の手首も、関係がないかのように無視して手遊ぶ。――その姿はまるで子供。道端で見かけた蟻を踏み潰す子供と同じ、純然たる残酷。そのことを悪いことだとは、微塵も思わない。 政宗の体中に散らばった赤い痕と青黒い痣に、光秀は楽しげに口付ける。そして、縄が擦れて赤い血を零す手首には、やわらかにあまやかに舌を這わす。その傷も、痣も、痕も、光秀が付けたもの。方向を誤った、感情表現。 「――ぅあっ」 責めるような、ずくずくとした痛みは、政宗の脳の隅を、断続的に刺激し続ける。 痛みで政宗が眉を顰め、微かな呻きをあげると、光秀は唇を吊り上げた。弦月の形に歪んだ唇の端を、舌を出して嘗める。目の色が、捕食者のその色に、染まる。 「ああ――いい響き、ですね」 まるで、政宗の呻きのような悲鳴が福音だと言うかのように、光秀は恍惚の表情を浮かべる。光秀の瞳の奥に灯り、ゆらゆらと揺れる劣情に似ている炎は、ちりちりと光秀の思考が侵食されていることを示している。 縄がぎちりと軋む音がして、手首に滲んでいた血が、腕を滑るようにして下りていった。その血の感覚が、光秀の舌の感触と同じように感じられて、政宗は思わず肩を跳ねさせた。光秀にいつも漂う死臭も、血の匂いに似ているかもしれない。 政宗の姿を見下ろして、光秀は、ぽつりと言葉を落とす。 「独眼竜」 「……Ah?」 「貴方を、私に下さい」 唐突な言葉に、政宗がいぶかしむように身体を揺らした。光秀の指先が、政宗の身体を辿る。 「貴方の声を、目を、腕を――私に下さい」 「――Just a kidding! 冗談じゃねぇ。手前なんかにやれるか」 「おや残念」 多少息が切れていても、政宗は気丈に吐き棄てる。その反応が気に召したのか、光秀はひずんだ微笑みを浮かべて政宗の目尻に口付けた。 「――そんな貴方が、欲しいです、ね」 するりとずらし曝された縄の痕跡に唇を落として、光秀は嘘とも本当ともつかない睦言を紡ぐ。 write:2007/04/18 up:2007/04/19
はじめは、互いに手を縄で緊縛している小説が書きたかったのです。
二人で縛りあってるのって、視覚的にはエロくて好きなんだけど、文章能力がなくて上手く表せん。 ううむ、途中で光秀さんが自分に結ばれてる縄のこと無視した動きになってるような。 自分的にはありなんだけど。どうなんだろう、客観性が失せてる。 久し振りの小説だったので、ちょっと気分に任せてみました。 |