真夏の空から燦々と注ぐ
確かに暑いが、まあまあ、心地好い
燦々と降り注ぐ太陽光を見上げながら、政宗は深々と溜め息をついた。暑くて、堪らない。ここ奥州では、ここまでの晴れ間も気温の上昇も珍しい。そのため、慣れない人はそのたびに苦労する。政宗もその一人だ。 奥州よりも暑い土地などごまんとあるため、「これぐらいで音ぇ上げる訳にはいかねぇ」と政宗は意固地になって縁側に座って鍛錬している成実と綱元を見ていたが、そろそろ限界が近いようだ。 そんな意地っ張りな政宗に、小十郎は小さく溜め息を吐き、女中に、水を張った桶に氷を幾つか入れて持ってくるように言った。程無くして、もってこられた桶を、小十郎は政宗に差し出した。 「……桶?」 「足先だけでも、冷えれば少しは変わりますでしょう」 政宗は目を生き生きとさせて、小十郎に桶を地面に置くように告げる。端からそうするつもりだった小十郎は、特に何も言わずに言葉の通りにした。政宗は喜々とした表情で足袋をひょいと脱ぎ、たぷんと氷水の中に足をつけた。 ぱしゃん、水がはねた。木桶に張られた水を、政宗の白い脚が蹴り上げる。ぽたぽたと落ちる飛沫が、地面の温度を微かに奪う。 「政宗様、手拭いです」 「あー……Thank you」 「他に、何かありますか?」 「Ah......何か、冷てぇモンでも食いてぇな」 「すぐには準備できますまい。我侭は申されないで下さい」 「今更だな」 「……まあ、同意するのもどうかと思いましたが、確かにそうですね」 「だろ? それでこそ、俺だ」 儚いミンミンゼミの声が、刀のぶつかり合う音のあいだを縫うように響く。「暑苦しいが、風流だな」と政宗が呟くのと同時、カランと氷が溶けて、ぶつかり音が鳴る。 ぱしゃん。政宗の足は、水を蹴り上げる。七色の放物線が、浮かんで、消える。 「小十郎」 「何でしょうか」 「……暑ぃな」 「ええ。暑うございますな」 「夏至なんか過ぎたっつうのになぁ」 「――きっと、あっという間ですよ」 何があっという間なのだ、とは、言わなかった。政宗はそこには触れずに、手拭いで顔に跳ねた水を拭いた。 ――忙しなく鳴いていたミンミンゼミの声が、ぷつり、と止んだが、彼は一週間を全うできたたのだろうか? write:2007/03/16 up:2007/03/17
また、こじゅまさとは呼べない政宗+小十郎話になりました。
あのお話の続きだと思っていただければ良いです。 時系列はこっちの方が古いかな。梵が元服してすぐの頃のつもり。 こういう雰囲気系は、気分が乗ってると書きやすいです |