それはきっと、いつまでも
見せてやるよ、俺が統べる世界を


 小十郎の武骨で肉刺だらけの指が、そうっと政宗の眼帯をなぞる。黒く、ひんやりとした他を拒絶するような冷たさのある、刀の鍔。己が手で抉り出した右目、がらんどうを隠すための、それ。
 優しく、やわらかく、壊れないように触れる。政宗の心的外傷の具現を、大切に、愛でるのだ。政宗がそれを拒絶したから、小十郎だけは、それを大切にする。疱瘡によって失った右目の視力、「醜い」と母親に拒絶された痛み、それら全てを、小十郎は受け止め政宗を包む。
 大切な、主君を。まるで光のような、主を。

「小十郎」
「はい」

 目を瞑って、小十郎の手が触れているのを享受していた政宗は、ぽつりと呟いた。政宗の言葉に動きを止めた小十郎の指先へと、ふわりと指を絡める。

「なぁ、お前には何が見える」

 寝転がったまま、政宗は小十郎の頬に両腕を伸ばした。そして、小十郎が政宗の右目にしたのと同じくらい、優しく頬に触れる。
 閉じていた瞳は、何時の間にか開いていた。あの彼特有な、強い意志の感じられる左目が、小十郎をまっすぐ見上げていた。

「俺の右目のお前には、どんな世界が見えてる?」

 政宗の指が小十郎の目尻のあたりに触れる。小十郎はそっと目を閉じた。まるで、先ほどの政宗のように。小十郎は、その指の感覚を、脳に刻み付ける。愛すべき、護るべき君主の手の感覚を。

「きっと、貴方の見ている世界と同じ世界を、見ています」
「ほぉ? 小十郎にはどう見えてるんだ?」
「――貴方が覇権を取る姿が、見えています。政宗様」

 政宗は、ぱちくりとまたたき、そして、破顔して小十郎の傷を撫でた。

「ああ。見せてやるよ、その姿」
「お待ちしております」
「楽しみにしとけ。そん時は、お前が横に居るんだからな」

 挑発するように笑い、政宗は身体を起こした。そして、心の傷を隠す眼帯を外して、畳に落とす。ごとり、と、存外大きな音が響く。驚いたような顔をする小十郎の左手を取り、右目に触れさせて、政宗は言う。

「この目はお前だ。俺の為に――生きろ」
「御意」

 政宗が、右目――過去の傷に触れることを赦すのは、小十郎だけ。その傷を、がらんどうの目を見ることが赦されるのも、たった一人だけなのだ。
 それはきっと、赦されるのは、死ぬまで彼だけ。――死んでも、彼だけ。





write:2007/03/25
up:2007/03/26
愛とか恋とか、そんな感情では縛られない、説明のできない主従の話。
……なんか、日を追うごとに文章を書くのが下手になってる気がする。
心の中のクサクサを、上手く文にできない。
ガス抜きが、下手になってきた、の、かな。