唇が紡いだ真実と虚言
言霊に、嘘は込められなかった


「……嫌い、だ」

 じっと見つめてくる視線から目を逸らしながら、元就はそっとを声をあげた。静かな声は確かに政宗に届いたが、彼は何も言わずに、そのままだった。そして、

「そうか」

 と、呟くように言って、おもむろに煙管を吸った。
 その仕種は、いかにも興味はないと言っているかのようだった。「貴様からこういう話を嗾けておいて」、と、心の中で元就はぶつぶつと呟いたが、それは決して声には出さなかった。
 元就は、政宗の全てを見透かしているような隻眼が嫌いだった。全てを見透かしていて、それでいて何も知らない振りをし、上手く誘導させて言葉に出させようとしているように、感じられたから。全てが自分どおりにならねば気に食わない、元就には。

「貴様なぞ、嫌いだ」

 念を押すように、元就は言った。右手は握り締められていて、目は政宗から逸らされていた。政宗はそんな元就の自己防衛も何もあったもんじゃないといわんばかりに、優艶に笑む。
 ああ、哀しいかな。元就は、その笑みに呑まれそうになってしまう。

「……Oh, really?」

 『彼』は溜息に似た吐息とともに、言葉を作る。元就の知らない、異国の言葉。元就はかすかに眉を顰める。しかし――むしろ、やはりといった方が正しいが――政宗は気にも留めない。
 ゆらゆらと煙が昇る煙管をふらりと揺らして、彼はゆっくりと嗤う。

「じゃあ、もう一度言ってみろ。――それが真実なら、言霊にして、な」

 その言葉に、元就は言葉を失った。言葉に込める意思までは、偽れなかったのだ。如何に、表情を繕うのが、得意でも。





write:2007/03/26
up:2007/03/27
好きだという事実を認めたら引き込まれてしまうと自覚してる毛利さんと、
詭計智将よりも一枚上手で、超絶やり手な政宗さんのお話。
あ、りだよね……? だよね?
当初は佐助で書いてたが、しっくりこなかったのです。