破裂した風船
最後は呆気無く崩壊する


「貴様は本当に我を飼い殺せると思っていたのか」

 元就の言葉は、しんとした彼の政務室に響いた。
 三成は畳に倒れたまま、己を見下ろす元就の顔を見上げる。無感動で平坦な表情で己を見る三成に、元就は眉間に皺を寄せた。三成の表情は常と変わらない。三成の表情を変化させるのは何時だって徳川が――裏切りが絡んだ時だけなのだ。
 元就は、三成の顔の横に置いた手を微か握り締め、なおも言い募る。

「答えよ、石田。貴様は、我を飼い殺せると思っていたのか」

 元就の言葉に三成は瞠目した。元就を真っ直ぐに見上げ、三成は言う。

「当然だ。――反論も認めないと言ったはずだが」

 三成の言葉に、元就は表情を歪ませた。何かを言おうとして開かれた唇はわななき、しかしその言葉の続きが紡がれることはなく、震えるままに閉じられた。
 元就の瞳は激情に揺れ、常に纏う氷の面は、最早どろどろに融けきっていた。
 大谷ならば、元就のその姿を「ぬしらしくない」と嫌味の一つや二つを飛ばし、彼を平常に引き戻そうとし、そして実際にそうできるだろう。しかし他者の機微に疎い三成は、元就が感情を瞳に宿していることの重大さに気付かない。気付けない。
 故に、三成は常と変わらぬ態度で元就に接する。それが元就の壁を、理性をもとろかしているとも気付かずに。

「早く退け、毛利」

 三成は感情のうつらない表情のまま、顎をしゃくった。しかしその動作は、元就の感情を逆撫でするのみであった。

「石田!」
「!?」

 耐え切れず、元就が怒号するように声を張り上げた。鷹のように鋭い三成の目が、驚きで微か見開かれる。まさか元就が大声を出すということが想像できなかったのだろう、三成は唖然とした表情を一瞬だけ覗かせる。
 怒鳴り返そうとしたのか開かれた三成の唇に、元就は文字通り噛み付いた。三成の乾燥した薄い唇から、僅かに血が滲む。

「毛利、貴様気でも違ったか!?」

 元就が唇を離すのとほぼ同時に、三成が噛み付くように声をあげる。しかし元就はその言葉を無視し、仮面の裏の顔を覗かせながら三成の顔を見下ろしていた。氷の面を融かされ、瞳には熱を宿して。
 自身の言葉に元就が返事をしないことを不審に思い、三成はやっと元就の顔に焦点を当てた。元就の目が真っ直ぐに三成を見ている。

「……もう、り?」

 流石の三成も、元就が常と違うことにいまさら気付いたようだった。しかし浅はか、三成は、元就の異変に気付くのが遅すぎた。

「もう遅いわ」

 冷たい言葉を熱い息で告げ、元就は三成の耳朶にやわらかく噛み付いた。首を竦めるように反応する三成に、元就は口の端を持ち上げ嗤った。

「悪いのは我を飼い殺し切れなんだ石田、貴様よ」

 絶句した三成の細い筋肉質な躰を、元就の手がたどる。三成を見下ろす元就の目に宿る熱は、たしかに、情欲の色をしていた。



write:2010/09/26
up:2010/09/27
三成の毛利戦ムービー「何度も言わせるな……従属しろ。反論は認めない」って素晴らしいよね!
がメインコンセプト。後はアニバサ12話の三成の表情は神、と思いながら書いたら後半妙なことになった。
就成いいと思うんだけどなー。世間的にはどうなんでしょ。見たことはないけどw
しかし理想は「ナリナリ殺伐ほんのりエロス」だったんだけど……ご、ご覧の有様だよ!
え? 3の毛利っぽくない? ……仕様です。