月の体温
ねむれないの


 夜特有の冷えた風が吹いた。見上げれば、少しだけいびつに丸い月が浮かんでいる。十六夜か、酒のひとつでも持たせれば良かったと考えながら、元就は夜闇の中で一人縁側に腰掛けていた。
 指先で縁側の床をなぞる。薄暗いが、長時間ここにいて闇に慣れた元就の目では、もう木目の数すら数えられた。
 ふう、と元就は息を吐いて床から指を離した。そのまま、寝間着の襟をなぞる。……風が少し肌寒い。羽織を持って来るのだった、と元就はぼんやりと思うた。
 夜空を見上げる。月明かりが屋敷を照らしていた。
 ふと、元就は人の気配を感じ、ちらりとそちらに視線を向けた。視線の先では、三成がやや覚束ない足取りでこちらに向かっている。

「どうした、石田」

 声をかけると、三成はその声で初めて元就の存在に気付いたように、目を瞬かせた。その三成の姿に、常に見せる苛烈な復讐者のような姿があまり見出せず、元就は人知れず眉を顰めた。

「眠れないのか」

 尋ねれば、こくりと三成の首が上下し、元就の問いに首肯される。……まるで童子だ、と思いながら、腰掛けたまま三成を見上げる。
 元就のすぐ隣で歩みを止めた三成は、どっかりとその場に座り込んだ。微かに触れる三成の体温は然程高くないが、夜風に当たり続けた所為で冷えた元就の体には少しあたたかく感じられる。

「何の真似だ、石田」
「眠れん」

 元就の問いに、三成は答えになってない答えを返し、元就の肩に頭を預けた。そういうことをするならば大谷のところに行けば良いだろう、と思いながらも、元就は三成の頭を退けることも、その場から立ち去ることもしなかった。あたたかい。
 元就は、三成に頭を乗せられているのとは逆の手で、三成の頭に触れた。柔らかい銀糸にさらさらと触れると、三成が心地良さそうに目を細めた。

「毛利」
「何だ、石田」

 元就が頭を撫でる手を止めて返事をすると、三成は元就の肩から腿に頭を移動させ、横になった。そして毛利、と再び名を呼ぶ。元就は自身の膝の上の三成の頭をやさしくなでながら、ふうと息を吐いた。

「貴様は童か」

 言いながらも、その言葉の響きは仄かに優しさをにじませていた。ぽすん、と三成の頭を優しくなでる。
 三成の銀の髪が、月明かりに照らされて仄かに輝いている。その銀の輝きを弄びながら、元就は滅多に聞けないやさしい声色で言うた。

「ゆっくり寝るがいい」

 頭を撫でながら、元就がゆったりと月を見上げる。――静かな、夜だった。



write&up:2010/10/03
「眠くなるとちょいとあまえたがりになる三成ってかわいい」と思ったらこんなことになった。
……今一発変換が「甘えたがりにナルミツ哉」で吹いた。昔取った杵柄ってことなのか……!!
ちなみにサブテーマは『おじいちゃんと孫』だったりする。BASARA元就は年齢不詳すぎて困る……
BASARAの毛利は、毛利元就というよりも毛利家を全部総括したって感じがする。