闇に浮かぶ鬼灯
凶に殉ず
深い闇の中、三成はしずかに佇んでいた。しかし静かなのは音だけを考えた場合のみで、ゆらめくような明白な殺意は三成の全身からにじんでいた。 ゆらり、ゆらり。 黒い何かが彼の体から滲む。常ならば薄い蜂蜜色の瞳すら薄ら鬼灯色に染まりきった三成の姿は、まさに凶王の言葉が似合いであった。 仇への憎悪と殺意に囚われた、凶に殉ずる男。 「三成」 己が名を呼ばれる声に、三成は振り返る。三成の視線の先には、腹心である大谷が輿に乗り浮かんでいた。彼の武器である数珠がひとつ、ふわりと三成の目前に近寄る。 「何だ刑部」 その数珠を気にした様子もなく、三成は問うた。 大谷の背には、東の空が広がっている。今はまだ暗いが、あと半刻もしない内に夜は明ける。その夜明けと同時に、三成が率いるこの軍は即座に進軍を開始するだろう。刹那移動する三成を追うように。 「昨日から何も食べてなかろ。そのままでは保たぬぞ、飯を食え」 「要らん。どうせ終わる頃には満たされている」 三成が鯉口を切る音が響くと、彼のからだから滲む闇色が一層濃くなった。鞘から僅か覗くはばきからも闇が漏れ出ている。 大谷は小さく溜息を吐くと、三成の方にやった数珠を己の方に引き寄せた。 「また兵士共が誤解しよる、凶王三成は人の死を喰らうとな」 ヒヒと大谷がわらうが、三成はその言葉を気にする風はない。それどころか、「思いたい奴には思わせておけばいい」と吐き捨てるのみであった。 三成は元より、自身のことにはほとんど興味を持たない性質であった。自身に対する評価など何処吹く風。彼の敬愛する秀吉と、そして、彼が仲間だと認めた人間を貶めるような存在には容赦なく斬りかかるなり殴りかかるなりしたが、三成自身のことは、どう言われようが然して彼は気にしなかった。 「……ぬしはそうであったな、三成」 ふと、過去の出来事を思い出して、大谷は目を微か細めた。話の意図がわからなかったのか、三成は微かに眉を顰める。 「何の話だ、刑部」 「ぬしが気に留めるようなことではない、忘れやれ」 「そうか」 三成はそれまでの会話への興味を失ったかのように、ついと視線を外した。三成の視線の先――東の地平線では、陽が昇りかけているところだった。 す、と左手に持った刀を構え直し、三成は一歩歩き出した。 「行くぞ刑部。ここなど所詮家康を斬滅する足掛かりだ、早々に終わらせる」 「あいわかった三成。ぬしは後ろを気にせず行くが良かろ」 彼らの背が、昇ったばかりの朝日で照らされる。――闇色が、より一層濃くなった。 write:2010/09/25 up:2010/09/25
大谷吉継×石田三成って、なんて略せば良いんだろうか。 苗字で略すと某テニスの青学副部長が脳裏を過ぎるんで、吉三でいきますかね。 まあそんなことは置いておいて。とりあえず初吉三。超難産でした。何がって大谷さんの喋り方が。 この二人はネタはいっぱいあるんですけどね。包帯巻く話とか。(物理的に)噛み付く話とか。 大谷さんの喋り方が掴めない現状では発散できなくて辛い。台本集早くー! 早く出てー!! あとついでに言うけど、ハバキが漢字じゃないのは文字コード的に仕方なかったの許して。 |