血を吸う刃のような
ぬしに似合いよ
三成は、裏切りを嫌う。 元より好む人間もそうはいないだろうが、三成の場合はやや潔白すぎるきらいがあるだろう、と大谷は思っている。 三成の場合は、裏切りを嫌っているというよりも、むしろ義に適わぬ行為を好まないといった方が正しいかもしれない。三成は過去に、豊臣軍の兵卒が大谷の陰口を叩いているのを耳に挟み、その兵卒共をしばらく戦に使えぬほどに殴りつけたことがある。 太閤どころかその腹心である半兵衛殿が息災であった当時ですらそうだったのだ。――心の縁をほぼすべて喪った今の三成に、裏切り者を許せるはずがない。 輿の上から三成を見遣り、大谷は一人息を吐いた。大谷の視線の先では、三成がまた一人敵将の首を狩り落としたところであった。 ――豊臣を裏切った徳川と手を組んだ武将の首を。 まるで殲滅戦よ、と大谷は数珠をふるいながら考える。生ける敵兵など一人も残さず三成の凶刃に斃れ、そして倒れた兵共は彼の無銘刀に血を吸わせのだる。ただの一人の例外も無く。 「刑部。……何処だ、刑部」 「ここよ。三成、ぬしは疾く行き過ぎる」 ふよふよと輿を浮かし、大谷は三成の傍に寄った。三成の具足は血水に塗られ、藤色に縁取られた陣羽織には返り血が染み付いていた。 三成は大谷の姿を認め、微かに頷いた。 遠くで法螺貝の音が響いている。敵軍のものではない。敵軍の兵は、すべて三成の刃が血を吸うていた。 「三成。勝ち鬨でも上げやれ」 「私がやる必要もない。別の将に任せておけ」 私はそんなものに興味はない、と三成は言う。――ぬしは鬨をあげる存在は太閤しか許容できぬのだろ。大谷は一瞬そう考えたが、それを口に出すことはしなかった。言う必要など、どこにもなかった。 「三成、手を寄越せ」 大谷の言葉に、三成は右手を差し出した。大谷の包帯が巻かれた両手が、三成の右手に触れる。具足や陣羽織と同様に、三成の篭手もじっとりと血に塗れていた。 布を持たせるか、と大谷が視線を周囲にやると、三成の手首がぐるりと回され、大谷の手首をつかんだ。 「どうした、三成」 三成はその言葉に返事はせず、掴んだ大谷の手にがぶりと噛み付いた。がりがり、と、病に罹った所為で肉が削げつつある大谷の指に三成の歯が立てられる。 「足りん……これでは私の飢えは癒されない」 「三成」 大谷は逆の手で、三成の頬についた血を拭った。何の汚れもついていなかった大谷の包帯が、僅かに赤黒くそまった。 「早く……早く家康の首が欲しい……」 「あと少しの辛抱よ、三成」 三成は、緑がかった蜂蜜色の瞳で大谷をまっすぐ見つめる。 その目を見、大谷はゆっくりと目を細めた。そして、大谷が窘めるように指で三成の頬をやさしくなぞれば、三成はそうっと目を閉じた。 遠くでは、兵の勝ち鬨の声がしていた。 write:2010/10/08 up:2010/10/09
戦場でナチュラルにいちゃつく大谷さんと三成ってどうでしょうか。 ……と、思いながら書きました次第で。ほかに言い訳が思いつかない。うん。欲望垂れ流したから。 おこわ届いたし、おこわネタでも書こうかと思ってたんだが、気付いたらおこわ関係ないという。 まあそういうこともある……よ、ね? あるって言ってたも!! |