地獄でワルツを躍りませう
永久に終わらぬ死の遊戯
政宗は、楽しげな宴を歓ぶような目で佐助を見つめていた。構えられたままの刀は、音もなく佐助のほうを向いていた。しかし、その瞳と対峙する佐助の目は、ひどく昏く、冷たい色をしていた。 二人のあいだには、確かな闇が落ちていた。その色は、とても深い昏黒色。一筋の光でも照らせぬのではないかと勘繰りそうになるほどに、強い黒だった。 「さぁ――殺り合いと行こうぜ?」 ちき、と刀が鳴る。ぞくりと血が沸き躍る、命を賭けた音が鼓膜を揺らす。そのぞくぞくとした快楽とも言いがたい感覚に、政宗は唇を舐めた。その様を見て、佐助も手裏剣を構える。その動きには、かすかな躊躇いが映っていた。 「……相変わらずの人だよ、アンタは」 「Ha. それはお前もだな」 にぃ、と唇の端を持ち上げて嗤う政宗に対し、神妙な顔のまま表情を崩さない佐助。吹いた風も、それに倣って靡いた髪も、佐助の表情を和らげるものには成り得なかった。 ぱちくり、と政宗は目をまばたかせた。 「楽しまねぇと損だぜ? 忍」 「俺様、仕事を楽しむような性分じゃないんで? それは無理な話かなー」 「言ったな! じゃあ割り切れよ。それすらできないで、何が忍だ?」 すらりとした太刀が佐助を差す。挑発するような笑みを崩さない政宗は、軽やかに言う。 「俺が今求めてるのは命を賭けた死合いだ。それが出来ねぇなら、――退きな」 政宗の刀が、仮想敵を薙ぎ払うように空を斬る。 佐助は頭をかすかに振ると、小さな声で問う。 「……どうとも思ってないわけ?」 「Ah? 何をだ」 まさに「何を言っているんだ」と言わんばかりに質問を反芻する政宗に、佐助は苛立たしげに声を荒げる。 「――っ、俺とのことは、どうとも思ってないのかって聞いてんだよ!」 確かに、互いは敵軍で相容れないはずの関係だったけれど。それでも、一時でもと、愛し合った時間すらなかったことになってしまうのか。と佐助は問い掛けた。忍ではあるけれど、非情になりきれない彼は関係に縋る。自らが政宗に告げた愛の言葉は、敵対し殺しあわなければならない状況でも有効だと思いたいのだ。 ――佐助に、政宗は殺せない。その想いは、今尚続いているから。 「思ってないってことはないぜ? お前のこと、嫌いじゃねえよ」 「なら――」 「それとこれとは話が違う。一時の感情で、民を、兵を危険に晒す真似はできねぇよ」 それは、一国の城主と、仕える者である忍との違い。 絶望にも似た表情で政宗を見下ろす佐助に、政宗は冷淡にも刀を向ける。六爪流――独眼竜伊達政宗の戦時の姿。 たん、と踏み出された脚。愛する者が振り下ろす刀を避けられるはずもなく、避ける気もなく。 ――佐助は、誉高い戦忍としては信じられないくらい呆気なく、事切れた。 「……Rest in peace. And I have loved you, Sasuke. ――Good bye」 手向けの言葉は、佐助には届かない。何時の間にか流れていた、政宗の頬を伝う雫の正体を知る人もなく。 戦火が、蔓延る。 write:2007/02/28 up:2007/03/01
愛しすぎたが為に殺せない忍と、
愛していても目的のためなら殺せるもののふのおはなし。 覚悟の違い、のお話です。 人の命を一杯背負ってる城主は、愛した者でも殺せるけど、 ただ人に仕えるだけの忍は、愛した者は殺せませんでしたという。 単に、佐助は好きな人を殺せないと良いなってだけの話。 |