生まれしは破壊衝動
(アンタを殺すのは、この俺だ)


 血腥い臭いと、独特の澱んだ空気。それに自身と武器をも融けこませ、俺は隻眼の敵大将を木蔭から見下ろした。刀を鞘に収め、腕組みをして立つその姿は、敵ながら天晴れといったところか。彼は数に臆さない。むしろ、数ある敵に囲まれてもその状況を楽しんでいるのではないかと思う節もないでもない。
 掴んだままの武器に込める力を、僅かに強くする。音を鳴らすような失態はさすがにしないが、こくり、と咽喉が上下した。――ぞくりとした。あの姿を、あ自分の手で壊したいという衝動が過ぎる。
 けれど、今自分に言い渡されている指令は飽く迄「伊達政宗の監視」である。必要以上のことはできない。喩え、どんなに自分が望んでも。ま、雇われの身の辛いところ。

「――誰かいるな?」

 ちき、と、刀の鍔が音を鳴らす。六本の刀を腰に差した独眼竜・伊達政宗は、本来なら見つけられるはずのない俺のほうを、まっすぐと見ていた。右目は隠し、晒された左目の眼光は鋭い。一度見たら忘れられない、その容姿。一瞬、その目と目があったように感じ、俺は震えた。――恐怖でも、畏怖でもない。それは歓喜であり、愉悦であり、恍惚だった。
 再び咽喉が鳴りそうになるのを飲み込むことで打ち消す。気の所為、偶然の一致、と動かず奴の気配を追うと、

「お前のことだよ。こそこそ嗅ぎまわってんだろ。姿見せな」

 とするどく言い放った。「俺も耄碌したかな。こんなに若い敵将に見つかるなんて」と胸の奥で嘯きながらも、その実、俺は見つかったことを密かに悦んだ。やり合う理由が、できたのだから。
 音もなく姿を見せる。すると、彼は唇の端を持ち上げて、笑んだ。その笑みは随分と綺麗で、俺は一瞬魅入られた。

「何所の忍だ? 見た目からして戦忍か」
「良い観察眼してるねぇ、流石といったところかな?」
「Ha. 御託は良い、名乗りな。相手してやるよ。――飢えてるんだろ?」

 鼻で笑うように、奴は言う。
 電撃が走ったかのような気分だった。奴は俺の思ったことを、俺の思考を、読んだのだ。自分で言うのもなんだが、自身の感情を隠すことには長けている。それが仕事だったから。それなのに、奴は俺の本心を見抜いたのだ。その事実にぞくっとした。
 これは、俺の獲物。他の誰にも、譲りたくない。これを壊すのは、俺だ。
 手持ちの武器を持ち直し、構えた。

「武田軍真田忍隊長――猿飛佐助。推して参る」

 六爪流が嘶く音が、した。戦は、今日も更けゆく。





write:2007/03/05
up:2007/03/07
サスダテの出会いのお話を書いてみた。超絶捏造。
お館様の命で戦中の伊達軍の監視をしに来ていました、ということで。
これも地獄の季節なサスダテにしようとしたのに、
またベクトルが変な方向へ向いてしまった。何故だ!