泡雪は呑まれ染まりゆく
白など、俺の中にはない


 米沢城をちらりと一瞥して、溜め息をついた。旦那も大将も、忍使いが荒いっていうかなんというか。きな臭い噂――伊達が戦を企てているらしい、という、内容もへったくれもあったもんじゃない――の真相を「少し」探って来いなんて。こんな真冬で雪の量じゃ、戦なんかできやしないのに。
 俺の気持ち知っていて、この仕事を俺に託けたんだろうか。なんて、要らない邪推までもしてしまいそうになる。……大将はどうだかわかんないけど、旦那に限ってそれはない、か。

「とりあえず……来たんだし会わなきゃ損かなー」

 ていうか、会う会わないは別にしろ、城に侵入しなきゃならないんだし。一方的だろうが見れるなら見ておきたい。
 茶屋の店先に座って団子を食べながら、そんな取り留めのないことを考えてみる。空の色は、少しくすんだ灰色。甲斐ではあまり見ない色。

「ああ、こりゃあ雪が降るねぇ」
「だなぁ。多く積もらなきゃいいな」

 奥に座していた客がそんな話をしていたのが耳に入る。――そうか、これから天気が崩れるのか。と思っていると、すっと雪が一粒二粒、落ちてきた。
 仕事中――寧ろ、任務中にはずすことはない手当てを外して、降る雪にそっと触れる。じわり、聞こえないはずの音を伴って雪が融けた。それは酷く呆気なくて、ぽっかりと心が空っぽになる感覚に襲われた。
 薄っすらと積もってきた白を踏んでみると、裏の汚れが雪を侵蝕する。なんて呆気ないんだろう。なんてすぐに染まってしまうんだろう。
 ――嗚呼、雪はまるで彼のようだ。それとも、彼が雪のようなのだろうか。強くあろうとしているくせに、その実、揺れやすい、奥州の覇者伊達政宗は。
 ひとつの考えに辿りつく。さすれば降る白が魂を塗り替えるなどとは確実に無理だと悟る。その白が、己を狂わせ黒くしていくのだから。

「……ホーント、何でこんな面倒なことになってんだろ」

 嘯く。町民の振りをして紛れ込んだ喧騒からそれないよう、一瞬で冷たく黒い空気をうちに閉じ込めて。
 雪にもう一度触れると、また雪が聞こえないはずの悲鳴をあげ融けて行く。侵蝕された白が、耐え切れずに世から消えていった。

 甘い狂気に蝕まれ、人あらざる道に走ることすらも、厭わなくなる。





write:2007/03/20
up:2007/03/21
政宗さまが出てないですね……。ご愛嬌ということで一つ。
いつもと違う、完全一人称で書いてみましたが……BASARAでは難しい。
現代系だと一人称の方が簡単なのになぁ。不思議。
私の中で、厳密に区別がつけれるようになってきたのかしら。