相似した喪失
在り方はこんなにも違うのに
廊下を軽い足取りで歩いていた宗麟は、ふと、いつも閉まっている部屋の襖が開いていることに気付き、足を止めた。口から無意識のうちに零れ落ちていたザビー賛歌もぴたりと止めて、宗麟はそっとその部屋の中を覗き込んだ。 宗麟が覗きこんだ部屋は、西軍の総大将石田三成の執務室のようだった。天気が悪いのもあって、部屋の中はやや薄暗い。私物らしい私物もなく、素っ気ない三成の執務室は、宗麟のそれとは全く様相が異なっていた。宗麟は私室にも執務室にもザビーの似姿を置いていたし、屋敷の到るところに絵師に描かせた自分とザビーの肖像を貼らせていた。 それが他所では珍しいことも宗麟は承知していたが、それでもここまで殺風景にする必要も無いでしょうに――考えながら、宗麟はきょろり辺りを見渡した。 咎める者は、誰もいない。 むくりと悪戯心が首を擡げ、宗麟はそっと音のない執務室に入った。そろりそろりと進んでいくと、宗麟は、文机に向かう人影に気付いた。薄暗い部屋でもかがやく銀糸の髪、上背にそぐわぬ細い背。紛う方無く、石田三成その人である。 まさか部屋の主がいるとは思ってもみなかった宗麟はおもわず一歩後じさった。しかし、その音に三成は何の反応も示さない。それを不審に思った宗麟が三成の背に声をかけようとしたその瞬間、ぐらりと三成の体がおおきく揺れ、そのまま横に倒れこんだ。 宗麟は慌てて三成の近くに寄り、三成の身体を起こそうと背に腕を差し込んだ。背丈のあるわりに軽い身体を持ち上げかけ、宗麟はふと違和感に気付いた。 顔色は悪いが、呼吸は荒いわけでもなく、むしろ静かなくらいだった。顔色の悪さも、よくよく見てみれば、いつも見る蒼白い顔と遜色ない。そろそろと逆の手で首筋に触れると、やや低めの三成の体温が、宗麟の指に伝わる。 「……まさか寝てるだけですか」 宗麟の言葉には、三成の静かな寝息だけが返ってきた。宗麟はむう、と唇を曲げながら、三成の背に差し込んだ腕を引き抜いた。そのまましばらく、宗麟は三成を見下ろしていたが、ふと思いついて、三成の身体を寝やすいように整えてやった。 「……」 宗麟は、ぺたりと畳に腰を下ろし、その場でうつ伏せになるように横になった。上半身を起こし、肘を床につけて組んだ手に顎を乗せると、宗麟はそのまま三成の寝顔を見つめる。 さらりと三成の銀の髪に触れ、額を覗きこむと、深い皺が寄った眉間があらわれた。健やかとは到底言い難い寝顔だ。夢くらい良いものを見ればいいのに、と宗麟はぼんやりとおもう。 「お前は可哀相な人ですね」 宗麟は、いつもの口振りからは予想もつかない、愛しむような口調で言いながら、三成の頬をなぞった。 死んだように眠る三成はその指が触れるのに反応を見せず、微かな寝息を立てるだけである。 「大切な人においてかれてしまったなんて」 ふらふらぱたぱたと左右の足を上げ下げしていた宗麟は、ぴたりと足を止めた。 「僕とおんなじですね、三成」 宗麟は呟くようにそう言うと、三成の額にやさしく口付けを落とした。 ――宗麟の寂しげな細い声は、誰にも届かなかった。 write:2010/10/27 up:2010/10/28
三成青ルートで戸次川行くと宗麟が仲間になるという事実が私の胸を揺さぶってならなかったので、つい。 結構平和な方の妄想の結晶。 底冷えするような鬱シリアスなそーりんと三成の話も妄想したけど筆力が追いつきませんでした。 在り方は全然違うけど、「唯一絶対」がいなくなったって点ではこの二人似てるなーって思った結果でした。 |