キス・イン・ザ・ダーク
あいしてる、なんて、言えるはずがない
「好き」そのたった二音の言葉が言えなくて、僕は君のことを無理に繋ぎ止めることしかできない。 後悔したってもう遅い。彼の気持ちは僕になど向いていない。それを知ってさえも、躰だけでもと縋ってしまうのを、君は馬鹿だと嗤うのだろうか? 「伊達、政宗」 彼を見下ろして、ぽそりと呟く。無理矢理にした所為か、唇の端には黒ずんだかさぶたがあった。そっと、それに指を這わせてみる。何故だか罪悪に似た何かが浮かび、すぐに手を離したが。 彼の目尻からは薄らと涙の跡まであった。大して啼いてはくれないのに、泣きはするんだなと、自分の身の振り方を呪ってしまう。 「……本当、僕は何をしているのだろう」 彼の首筋に赤く残っている自分の歯形にそっと触れた。乱暴に扱った痕跡。抵抗はせず、僕との関係を甘んじはしてくれる。けれど、彼は決して心を見せてくれない。僕に対し一縷の恋慕も抱かずに、ただその行為を受け入れるだけ。そう、彼は「竹中半兵衛」という僕個人を受け入れてはくれないのだ。 嗚呼。 「君には、見えていないんだろうね」 僕の想いなんて、ね。――知っている。知っては、いるけれど。自分で選んだこととはいえ、この状況はさすがに堪えた。どうせ叶わぬ想いだと、ひとまとめに捨てられたらどんなに気楽だろうか。 「……おやすみ、伊達政宗。今だけは良い夢をご覧」 いっそ、このまま彼が目覚めずにいれば、自分のものに出来るのに。 胸に浮かぶ本心とは裏腹な言葉を吐いて、彼を見下ろす。強く握り締めたのだろう、左のてのひらにかさぶたが出来ていた。今更気付いた自分に呆れつつ、その手のかさぶたに、そっと口付けを落とす。 かすかな寝息を立て眠る彼に、今だけは優しい口付けを。 write:2007/02/16 up:2007/02/23
体だけの関係な竹中×伊達。竹中→伊達っぽく書いていました。
筆頭をじわじわ苛みたくて書いたんですが、行為描写がないですね。 政宗なんて一言もお話してません……次回はきゃんきゃん噛み付く伊達を! |