狂気な歓喜を以って
君と一緒になれるなら、僕は全て食べられても良いよ


 かしゃんと音をたてて、南蛮との交易で得た精巧なぎやまんの硝子細工は卓から落ちて、粉々に割れた。その破片が跳ねかえり、転がっていく。ぐしゃぐしゃと掴まれた前髪の所為で開けた視界の目でそれを追いつゝ、政宗は、次に自分がどうされてしまうのだろうか、と想像した。
 じわりと自分の身が切りつけられる。ぽっかりと風穴が開いて、足元に滴るのは赤い水たまり。
 ――想像できたのは、いつも戦場で自分が作り上げているような景色で、政宗は恐怖心よりも何よりも先に、衝動を感じていた。
 戦場で、強い敵に出会ったときのような、衝動。けれど、今は決してそんな場合ではないことを、政宗はよく知っていた。

「政宗くん」

 狂気の中に、たった一滴の愛おしさを垂らしたような声に、名を呼ばれた。
 政宗がゆっくりと顔を上げると、想像通り、頬に一筋の赤線が通った。――いや、想像よりかは生温い怪我ではあったけれど。
 痛みで顔を引こうとしても、ぐいと持ち上げられている前髪がその動きを遮る。政宗は諦めたように、そのまゝでいた。

「愛してるよ」

 確認する間も無く、口に無理矢理捻じ込まれる塩辛いかたまり。あゝよく見れば、その肉片を持つ手の指がひとつ欠けてはあるまいか。その白い鎧が、政宗のものではない赤で彩られては、あるまいか。
 政宗はくらりと意識が遠退くような感覚がした。口の中に広がる厭な味は、どんなに贔屓目で見ても血潮の味。――おぞましい、と、素直に感じた。

「さあ、お食べ。食べて一つになろう、政宗くん……?」

 にこりと笑う顔は、確かに翳り無き笑顔だった。政宗は、むりやりに口を押さえ込まれてしまったが為に、口の中の異物を腹の奥から競り上ぐ吐き気と共に、飲み干さざるを得なかった。





write:2007/03/12
up:2007/003/13
えーと。あの。その……うん、ごめんなさい。
私って、誰かの制止とかがないと、こういう小説しか書きません。
こっちの方が、得意なんです。実は。
BASARAサイトは地の文に近いから、更新しやすいんだろうな……