初陣
喪失 と 獲得
ぽたり、ぽたりと斬り捨てた武将の血を滴らせる刀を空で一閃し、三成はそれを左手の鞘へと収めた。静かに響く鍔の渇いた音が耳を揺らす。鍛練の間、常に聞き続けていたといっても過言ではない音。三成はそれを聞きとめると、詰めていた息を吐き出した。 鼻が嗅ぎ付けるのは血水の臭い。 そこでやっと、三成は自身がそれまで息を殺していたという事実に気が付いた。前髪に隠れ見えぬ眉間に微か皺を寄せ、空になった右手を見遣ると、手の甲がじっとりと血潮に濡れていた。その感触に、三成は表情を小さく歪めた。 三成の目は、ほんの微かに、揺れていた。 布を持たせようか、と考え、三成はそれを取り止めた。自ら単身で敵陣に突っ込んだのだ、三成の足に追いつける足軽などいない。今頃追い付かんと走っている最中だろう。 三成はぼんやりと虚空を見上げた。今にも雨が降り出しそうな曇天だった。 ――ひでよしさま。 口には出さずに最も尊い名を、呼ぶ。 その三成の音を伴わない呟きに誘われたのか、ぽつりぽつりと雨が降り出した。三成は無感動にその雨を受けながらその場に佇んでいた。雨粒が三成の陣羽織に滲み、鎧に付いた血を僅かに押し流す。 三成は、ぼんやりと、彼の敬愛する豊臣秀吉に拾われた日のことを思い出していた。 頭を撫でる大きな手。強く成れと告げた低く力強い声。進むべく道を示した先を行く広い背。 遠い記憶を望郷するかのように、三成はそっとまぶたを下ろした。 雨足はだんだんと強くなっていく。雨は、三成の銀糸のような髪も賜り物である陣羽織をも、しとどに濡らす。 鞘を握り締める左手に僅か力を込め、三成は目を開けた。その瞳からは、最早感情の揺れなど見出せず、強い感情のみが見て取れた。 闇を纏い瞳に赤を漂わせ、三成はゆっくりと唇を動かす。 「私は秀吉様の左腕」 そのか細い声は、祝詞のようにも呪言のようにも聞こえる、不思議な響きを湛えていた。雨が音を奪い去った、遺体ばかりが転がる陣に、三成の宣告はしずかに響きわたる。 三成は名すら記憶に残っていない武将を退かすように背を蹴、転がした。力なく転がるそれに目を遣ることなく、ゆらり三成は歩き出す。 首級への興味も、恩賞へすら興味はなく、全ては彼の敬愛す秀吉の御為に。 いまの三成にあるのは、ただそれだけであった。 write:2010/09/10 up:2010/09/17
つうわけで三成習作。今後増やすかはわからないけど、とりあえずうpっておこうかなーって思った。 瞳の揺らぎは初めて人を斬ったことに対する怯えと恐怖と躊躇い。 けれど秀吉様のためならそんなモン全部捨て去るよ、と。 後は恐惶状態をイメージしてたり、斬首のラストの蹴るモーションマジ最高!精神を詰めたり。 短い割に個人的な趣味嗜好が丸出しで、欲望詰め込みまくり。 それにしても、精神を星辰と一発変換するマイPCには何かが這い寄ってるとしか思えない。いあいあ。 |