お前のほうが優位なんて
そんなこと、認めない


「……あの、政宗殿……某も、一応、男でござる、よ?」

 目の前の真面目そうな顔。いつもの真田幸村のような表情じゃない。破廉恥だの何だの言う、顔ではない。敢えて言うならば武具を携え、俺と殺り合う時のような――そんな、顔。
 ……ああもう。苛々する。イライラする。実は、俺より高い背とか。倒してやるといつも思うのに倒せない強さとか。ただひたすらに一つの事象だけを見れる、ある種の直向きさも。羨ましいとともに、苛立ちが生まれる。
 いつになく真剣な顔。圧し掛かる重さ。近い息。真田幸村の声が、鼓膜を揺らさず頭蓋骨に直接響く。

「……それに、一応、健全な、おのこな訳で」

 右肩あたりに額が押し付けられて、真田幸村は言葉の続きを小さく呟いた。
 そうして、「い、言ってしまった、某は破廉恥でござる……」と、慌ててあたふたと俺の頭から顔を離す。しかし、俺の上に馬乗りになっているこの姿勢は崩す気はないらしい。そのままの状況で、真田幸村はぶつくさと文句を言う。文句を言いたいのはこっちの方だコンチクショウ。

「こう煽られてしまっては、流石の某でも我慢できないというか、なんというか、その」

 うじうじしている真田幸村がどうにもじれったい、けれど、こちらの方が俺はむしろ安心する。こいつはいつもこんな風にしてるほうが良い。真面目の顔の真田幸村も嫌いじゃない――が、こちらの方が俺は好きだ。
 体を無理に起こして、唇に唇を掠めた。かあっと真田の頬は紅潮する。

「政宗殿っ! 某の話、聞いておられたか!?」
「Yes. 聞いてたぜ。納得はしてないけどな」

 ちゅ、と音をたてて頬にも口づてみる。どんどん赤くなってく顔は、まあ、なんか面白い。あの赤い服との境目がわかんなくなるんじゃないかってくらい赤くなってく。

「別に良いんだぜ? 我慢は身体に毒だろ」

 耳元で囁いて、耳朶に噛み付くと、奴はいっそう赤くなった。熱っぽいな。と思っていると、ぐいと肩が押されて、またさっきと同じ状況になる。

「某、そこまで言われてしまっては我慢できませぬぞ」
「OK,OK. 付き合ってやるよ」

 お前によると、俺が焚き付けたみてぇだしな? と、囁くと、真田幸村はまた顔を赤くする。それを誤魔化すように首筋に噛み付いてくる真田幸村を宥めながら、俺は目を閉じる。
 まだ、手綱は握らせたくねえ。――もう少し、俺のほうを優位にしてくれよ。





write:2007/03/07
up:2007/03/08
一体どういう状況なのかわからないサナダテ。
とりあえず書きたい歌小説から一度離れてみた。だって脳内が色々と危ないし。
書きたいネタが濁流のように押し寄せてるのでインターヴァルです。
次からは替え歌ネタか、サキュバスネタに手を出したいな……