After Calling your name.


(西丸)

 舌の奥で転がる名前。実際に呼ぶには、まだ少し勇気のいる音。まだあだ名以外で呼んだことはないからか、実際に音に出そうとしてみると、とても恥ずかしいような気がした。

(ノマル。西丸。――ふない、にしのまる)

 幾度となく脳内で繰り返される彼の名前。酷く尊いような、大切なもののように感じれるその名。何度も口に出そうとするけれど、それでもできない。
 うつ伏せた机の冷たさが、自身の体温でぬるくなっている。硬い机に押し付けるようにした額が少し痛い。

「……つこみ。もう起きろ」

 声が、俺を引き戻す。後頭部の辺りを撫でられている感触がして、俺はゆっくり顔を上げる。夕陽が差し込んで、オレンジ色に塗り潰されている教室。俺の机の前の椅子に座ったノマルは、俺の頭から手を離して、じっとこちらを見ていた。

「具合でも悪いのか?」

 心配そうな声色に、素っ気無く返す。

「……いや、そうやない。大丈夫や」
「そうか? なら良いんだけどよ」
「そ、んなことよりノマ、放送室行こうや。放送室!」

 がた、と音をたてて立ち上がる。呆れたようなノマルの苦笑は、逆光で少し見難かった。
 まだ呼べない名前――彼の名を音にすることができたら。俺は、ノマルに。西丸に告白しても、良いですか?





2006/12/04
まだきちんと名前を呼べないから、告白するのはもう少しあとなんだ。
名前を呼べたら、告白も、できるかな?