Before Calling my name.


「ねー、暇だし淋しいから、作業止めてくれません?」

 ふわりと、後ろから突然手が伸びてきて、手中のシャーペンが奪われた。肩口に頭の重みがずしりと圧し掛かって、少し眉根を顰める。けれど、奴にはこの表情は見えていないのだろう。
 息を吐いて、奪われたシャーペンを奪い返す。山狐が「あ、」と短く非難するように声を上げたが無視をする。声は出さずに、作業を再開した。

「誉さん、怒った?」
「……」
「誉さーん?」

 こうやって、山狐に名を呼ばれるのは、実は嫌いではない。むしろ、好きの部類に入る。悔しいし、癪だから、言ってなんてやらないけれど。

「ねえ、構ってくれないと、俺も実力行使に出るよ」

 そんな言葉と共に伸びてきた手を、反射的に叩き落とす。勢いで振り返ると、してやったりといった風でにんまりと笑う山狐と目があった。こいつはこれを狙っていたのか、もし仮にそうだとしたらかなりの役者だ、と心中毒づいていると、至極楽しそうにしている山狐が言葉を紡ぐ。

「やっとこっち見た」
「……山狐が、それを狙ったんだべした」
「まあそうだけど」

 また、シャーペンが奪われる。

「でも、ほっとかれて寂しかったのは、ホントっすよ?」
「……馬鹿ですか」
「ん、そーかも」

 近付いてくるくちびるを、碌な抵抗せず受け入れる。
 何だかんだ言って、自分は奴が好きなのだ。――やっぱり悔しいから、これだけは絶対に、言いなんかしないけれども。





2006/12/04
私の書く誉さんって、いつもお仕事してるなぁ。
人が集まらないから生徒会がほぼない学校なのに。
単に私が誉さんに夢抱いてるだけなのかもしれないけどねぇ。