ハイド


「ひっじょーに言いにくいことなんやけど」
「……」
「言ってもええ?」
「ああ」

 珍しくつこみが真面目な顔して、しかも正座までして俺にそう言った。まあ別に聞くぐらいなら大丈夫だよな、などと高を括って生返事をしたのが運の尽きだったのだろうか。

「ノマルと、したいんや」
「……何を」
「何って……。決まっとるやんけ、あれやあれ。セッ」
「聞いた俺が悪かった。言うな。むしろ言わないでくれ」

 珍しく真面目だと思ったのに、何だよその発言。煩悩まみれじゃねえかよ。一瞬でも話を聞いてやろうと言う気になった俺が馬鹿馬鹿しくて堪らない。悔しいし。
 心中で溜息を吐いて俺は手近にあった新聞(何であるのかなんて知らないが)のテレビ欄に視線を落とした。

「ダメ? それともいやなん?」
「どっちもだ。まあ嫌のほうが比率多いけどな」
「うわひど! 俺ら恋人同士なんやろ? いいやんか一回ぐらい!」
「そういうもんじゃないだろ」

 そう言えば、つこみは不機嫌そうな表情で正座を崩した。「……それ言うためだけに正座してたのかよ」と、言いかけた言葉を俺は飲み込んだ。
 言ってしまえばつこみの神経を逆撫でするのは目に見えていたし、自分から自分を窮地に追い込むような真似はしたくない。

「いいやんか……。俺ノマルのこと愛してるんやし、何も困ることあらへんで?」

 はあ。こいつは何もわかっちゃいない。能天気な目の前の頭を、持っていた新聞を丸めて殴った。
 つこみが俺に掴みかかってきて、ぐだぐだ文句とも愚痴とも取れるようなことをつらつら並べ出す。

 ああ、やっぱり。俺らには、こういう関係のほうがにあってる。





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