紫色の雲


「もう一日も終わるんかい。忌々しい」

 沈み行く太陽に向かって、つこみはぼそりとそう呟いた。その言葉のあまりの理不尽さに、西丸はフォローをするということを忘れて言葉を聞いていた。
 つこみの苛ついたような言葉はまだ続く。

「日が落ちるんやったらさっさと落ちぃや。中途半端なんが一番嫌いや」
「……つこみ?」
「中途半端は嫌や。――まあ、優柔不断もな」

 つこみは、テーブルの上に置いてある硝子の器の淵を指で弾きながら言葉を続ける。高い綺麗な音が、空気を硬くした。

「好い加減、俺、ノマルの『答え』が欲しいんやけど」

 睨み付けるような目で西丸を射抜き、つこみはまた硝子の器の淵を弾いた。
 びくり。西丸の肩が、とても小さく震えた。

「……嫌なら、『嫌や』てひとこと言うだけでええ」

 つこみは足を組替えると膝に肘を乗せ、はあ、と疲れきったような溜息を吐いた。一瞬、西丸から視線を逸らし、窓の外の夕陽に目をやった。――まだ、日はある。

「なあ、ノマ。俺このままなのは嫌なんや」

 真っ直ぐな目はただただ純粋に西丸の答えだけを待っていた。
 その先に待つものが、仮に否だったとしても構わないという、とても真っ直ぐな目で。

「どっち? 早く決めえよ。これ以上は、待てへん……」

 西丸は縋るように窓の外の沈みかけた太陽を見た。
 完全なる日の入りまで、あと、何分?





2005/09/22





菫色の絵の具で塗るキャンパスが、闇色に染まるまで待つから
闇色が照らされる時間までだって、待つから