こたつ


「しみじみ思うんやけど、コタツって偉大な発明やな」
「……唐突だな」

 つこみの言葉に、西丸は蜜柑の皮を剥きながら呆れたような口調でそう言った。
 む、とつこみは一瞬頬を膨らませる。

「コタツに蜜柑。風流やろ?」
「そうか?」
「ええやん。冬暖こうて、コタツって素晴らしいやんか」
「……だからって偉大か?」

 蜜柑の白い部分を丁寧に取りながら西丸は問い掛けた。
 つこみは西丸の行動に目を円くしながらどかどか言葉を投げる。

「ちょい待ち。その白いトコが栄養たっぷりなんやで!? そここそ食うべきや!」
「食感悪くなるから嫌いだ。それに、他の三食で必要量摂取してるんだから別に食わなくとも平気だ」
「……ノマはそういう頭が痛なるような計算好きやなあ」
「数学は嫌いだけどな」
「中学ンとき、家庭科だけは絶対五付いとったろ」
「残念。俺の中学は十段階評価だった」
「……否定はしないんやな」
「まあ……十だから否定はしねえよ」

 そこで言葉を止め、西丸が蜜柑をひとつ口に含んだ。
 物欲しそうに見つめてくる目の前の顔に溜息をついて、西丸はつこみの唇まであと三センチというところにずいと蜜柑を押し出した。

「……欲しいんだろ」
「いやん、ノマルってば大胆やなぁ」
「いらないなら俺が食うぞ」
「や、ちょい待ち、俺ちゃんと食うわ」

 引っ込めようとしていた西丸の腕をぐっと掴んで、つこみはひょいと西丸の指ごと蜜柑を口に含んだ。
 顔が一瞬で紅潮した西丸は、物凄い勢いで指をつこみの口から引き抜いた。

「……!!」
「ご馳走さん」
「『ご馳走さん』じゃねえ! おいつこみ!」

 西丸がつこみを呶鳴りつける。
 つこみは西丸の顔を見ながらそれを聞いてる振りをして、――真っ赤なまんまで言うても、そう迫力あるもんやないで? と、小さく聞こえないように呟いた。





2006/02/23