トゥディ イズ レイニィディ


「雨ですね」
「そっすねー……」

 叩きつけるような雨。がたがたと鳴る窓。窓に触れると指先にじんわりと冷えた感触がした。それがだんだんと心を侵蝕していくようで、誉は小さく溜息を吐いた。
 大和が驚いたように誉を覗き込む。

「ただでさえ誉さんってば陰気臭いのに、溜息なんて吐いて何してんすか」
「山狐に関係ありません」
「そればっか。そんな顔してると幸せ逃げますよ?」
「……んだなもんで逃げる幸せなら必要ありません」

 誉は吐き棄てるように言い、何故か放送室にあるソファに座り込んだ。そして、誉の指先が曇った窓を辿り、流れるような筆記体で英文を綴る。

「……筆記体読めないんですけど」
「さすが山狐。こんな簡単なのもわかんないんですね」
「……今のは、流石の俺でも頭にくる」
「そっだらこと関係ありません。事実ですよ」

 けらけらと笑い、誉の指はまた文を辿る。大和はその動きを逐一見逃さないように視線を右に左、上に下にと動かした。しかし、英語があまり得意ではないという事実もあり全くもって意味がわからない。
 苛立ったのか文字を綴る誉の手を後ろから取り、大和は誉を後ろから抱きすくめた。はあ、呆れたように誉は右手から力を抜いた。

「何の真似ですか?」
「んー? 狐の食事、かな?」
「はっ、狐はこんなに大きな生き物食べれませんよ」
「そういう事実はここに置いておいて」

 ぎし、と安っぽい、ソファの軋む音が部屋に響いた。ざあ、雨の音が部屋を外界と切り離しているかのような錯覚がした。

「ね、誉さん……ダメ?」

 にやりと笑う大和の顔から、誉は目を背けた。
 書いた英文から水が垂れ、文章が半分ほど消え掛けていた。





2005/08/27