このひとときに、きみと


「誉さんって実はキス好きだよね」

 甘いキスのあとに、そっと誉の髪を右の人差指で梳きながら大和は呟いた。その言葉に、誉は一瞬驚きの表情を見せ、そしてほんの少しだけ眉を顰める。

「違いますよ」

 大和の額を指で弾いて、誉はゆっくりと言った。反射で額を押さえた大和に小さく笑みを浮かべて、誉は小さく囁いた。

「……キスが好きなんじゃありません。そこの馬鹿な山狐が好きなだけですよ」
「へえ。嬉しいこと言ってくれるんすね」

 ちゅ、と誉の耳の近くで甘い音がする。瞬間誉が感じた、ほんの少しだけ肩を押される感触、一瞬の浮遊感、背中に感じられる柔らかなクッション。

「言ったからには責任取らせますよ、誉さん?」
「――ん、」

 大和の唇が触れた誉の肌に、紅い痕が浮かぶ。その痕跡を舌で辿り、大和は咽喉の奥まで出掛かった言葉を飲み込んだ。
 その大和の様子に気付いたのか、誉はゆっくり不安気に言葉を紡ぐ。

「やま、ぎつね……?」

 大和の冷たい唇が、誉のかたくなさを融かしていく。
 ぎし。ソファの軋む音がした。





2006/04/03