放課後の生徒会室


「誉さん、暇ー」
「こっちは暇じゃないんですけど、ね」

 何かしら(恐らく生徒会のだろう)の作業をしている誉の机の真正面に椅子を何所からか持ち込んで、大和が暇だ暇だと騒ぎ立てる。
 安っぽい紙に視線を滑らせながらも、誉は大和の言葉に逐一反応していた。
 けれど、そろそろ誉の堪忍袋の緒も切れてしまいそうだった。こんなに騒がしくされてしまえば、できる作業だってできなくなる。
 苛立ちを覆い隠そうともせず、誉が重苦しく息を吐く。

「ねー、誉さん、まだ終わんないのー」

 ああもう、うっつぁーしー。何度返したかわからない言葉を、誉は脳内だけで繰り返した。口に出したところで、大和が静かになるなんてことありえないので、もう言わなかったけれども。
 作業は明日に繰り越そうと決めたのか、誉が手持ちのボールペンを筆箱にしまう。
 そして、机から身を乗り出して、騒がしい大和の頬にキスをした。ほんの少し触れるだけの、戯れ。

「――!? え、ちょ、誉さ」
「……さて、帰りますか」

 めずらしく頬っぺたを赤らめてうろたえる大和を軽く無視しながら、誉は自身が身を乗り出した時の衝撃で少しだけ散らばった紙類を軽く整える。
 唐突のことに追いつけていない大和のほうを見遣り、誉はいかにも楽しそうに、いたずらな笑顔を見せた。それを見て、大和はやっと思考が戻ってきたのか、慌てたように声をあげる。

「ちょっと、誉さん!? これどーゆーこと!? も、もっかい!」
「やんです」

 切り捨てるように言って、誉は鞄を肩に掛けた。憮然とした表情を浮かべた大和は、渋々それに従った。無意識の内に、溜息が出そうだった。
 ――俺がしてほしいときは絶対やってくんないくせに。
 と、誉に聞こえない程度の声で、呟いた。誉が「何か言いました? 山狐」と不審そうに覗いてくるのを、「気のせーですよ」とわざとらしい軽薄な口調で掻き消した。
 大和は腕を伸ばして、生徒会室のあかりを消す。その暗くなった瞬間、大和はやり返すように、誉の唇に掠めるようなキスをした。
 誉も顔をあかくしたけれど、暗くて見えない。それを確かめようとしたのか、誉の頬に、もひとつくちづけ。





2006/07/25