ミッドナイト・ラヴァー


 ――ボク、海馬くんが好きなんだ。
 遊戯はオレをまっすぐと見つめて、そう言った。驚くほど純粋な目だ、と思う。しかし、オレはその言葉を脳内で反芻しながら、微かに苛立っていた。
 何故貴様はオレが今後言おうと思っていたことをそう抜け抜けと言うんだ!

「……月が」

 オレの唇からは、遊戯にはあの言葉の返答とは思えないであろう言葉が紡がれていた。

「え?」

 オレがゆったりと声を上げた瞬間、遊戯は縋るような最後の望みにかけるような瞳で俺を見上げてきた。――デュエルキングだとは到底思えないような、情けない顔だ。

「月が、綺麗だな」

 意趣返し、とでも言うのだろうか。
 オレから言うつもりだった言葉を(しかもまだ言うつもりではなかった言葉だ)、先に言われてしまったことに対する、仕返し。……きっと、遊戯はこの言葉の真意を知らないだろう。オレにしてみれば遊戯からの告白の返事はこの言葉で終えているが、遊戯はそうとは思えないはずだ。しばらくはオレからの答えを得られぬまま、宙ぶらりんな状態でモヤモヤしたものを持て余すに違いない。
 窓が切り取った宵闇の夜空を見上げる。オレの言葉につられたのか、俯いていた遊戯も月を見上げた。
 細長い三日月に照らし出される室内。ただでさえほの白いオレの膚が、蒼白く光っているようにさえ見えた。

「ホント、だ」

 ぱちくりと目をまばたかせて、遊戯は呟いた。
 部屋に満ちる静けさには居心地の悪さはなく、ただ、三日月がゆらり揺らめく様を見上げている。

「きれいだね」

 うわごとのような遊戯の呟きが気になり、月を見上げていた視線だけで顔色を伺うと、奴の目が、今まで見たことがないような色に彩られていた。思わず、いぶかしむように片眉が上がりそうになった。
 ふん、と鼻を鳴らし、再び窓の外に視線をやる。

「ねぇ、海馬くん」
「なんだ」

 遊戯の方に視線はやらず、言葉だけを返す。沈黙が室内にゆったりと横たわった。

「……月がきれいだ、ね」

 月から視線を外して遊戯の方を見つめたが、遊戯の視線はまっすぐに月を見上げていた。ただ、僅かばかり頬が赤らんでいるのは、月夜の薄闇でも隠しきれてはいなかったが。
 知らず口元に笑みが浮かぶ。

「……ああ、そうだな」

 ――貴様といると、月が綺麗だ。





2008/10/25
瀬人さんお誕生日おめでとうございます……!
ケーキは買った、小説は書いた、オンリーも一般だけど参加した……私に出来ることはもうありません。
私に新しい世界を見せてくださってありがとうございます。