うしなうもの
うしなったもの


 最初から必ずくると知っていたさよならに、気づかないふりをして彩った毎日。――それはとても滑稽で、けれども、とてもとても綺麗でした。
 このさよならの後、灰色でからっぽの毎日をどうやって生きていけばいいんですか? 誰か。誰か、教えてください。

 「何もかも終わったら俺の所に来ればいい」

 うそつき、うそつき。「離さない」って言ったじゃないですか。何もかもが終わった後に待っているのは、幸せだと信じていたんです。馬鹿みたいに、縋りつくように信じていたんです。
 知ってはいたんです。さよならは絶対に来ると。それを言わずに済むことは絶対にないと。理解は、していたつもりでした。

 「30世紀? 馬鹿馬鹿しい。そんなことは気にするな」

 そう、言ってくれたじゃないですか。一緒に居てくれるって言ったじゃないですか。異星人だってことも気にしなくて良いと言ってくれたじゃないですか。「それでも、お前が大切だ」って頭を撫でてくれたじゃないですか。
 どうしてですか。そのあたたかさはもうないのですか?

 僕はまだ、お礼を言っていません。
 僕はまだ、お別れの挨拶をしていません。
 僕はまだ、好きと言っていません。
 僕はまだ、愛してると言っていません。

 こんなにもやりのこしたことがたくさんあるのに、どうして? どうして、いないんですか。好きなんです。どうしようもなく好きなんです。過去のことではなく、今でも大好きです。愛しています。愛せば戻ってきてくれますか? 想いを伝えることができますか?
 ……知っていますよ。所詮、無理な話だと。でも、それでも。泣いただけで全てを忘れられるほど、僕は器用になれませんでした。
 どうして、死んでしまったんですか? それが定められた未来だったのですか? その未来を守る為に、僕たちは戦っていたのですか?

「……直人、さん」

 あなたが死んでしまう未来を守る為に戦っていた自分を、僕は呪います。





2005/09/19





僕はさよならなんて言えない、あなたに言いたいことがまだある
涙だって出てこない。まだあなたの死を認めたくないから