彼岸花の向こう側に
(いきたい、一緒にいきたかったです)


「…直人さん」

 手の中を揺れる花。たゆたうのは意識。うわ言のように呟かれたのは、甘い危険性を孕む小さな言葉ただひとつ。
 風に吹かれて漣画く彼岸花。その紅は、いつだったかは忘れたが、あの日海に撒布された毒々しい赤色を彷彿させた。
 ――ぱさり、手の中の花が落ちた。

「……すき、です。今でも」

 彼岸花が、また風に吹かれる。
 重力に従って落ちていく雫のみちすじが、冷たい。落ちた花にひとつふたつと雫が落ちて、鈍い光が明りを喪いつつ反射する。紅蓮の花が、滲んでぼやけ、ぐにゃりと歪曲する。

「……本当、です。ずっと、ずっと。好きです……」

 徒に吹く風が、その言葉を掻き消した。雫が落ちた花が無残にころり転がって、彼岸花が慰めるかのように柔らかな音を奏でた。
 今日は、曇りの日。雲の切れ間だけから覗く太陽、明日はあなたの顔を見れますか?





2005/09/30





さよならを言うための勇気を下さい、今のままでは言えないから
ねえお願い彼岸花の紅い海、持っていた花の色が翳むぐらいに鮮やかな――