■ 痕跡(良守×限)
しんとした寒々しい静けさに満たされた部屋は、予想以上にがらんとしていた。物がなく、必要最小限とすら形容できない。卓、蒲団、冷蔵庫。見つけようと見渡しても、それ以外に生活を感じさせるものがなかった。台所には使用された形跡がない。冷蔵庫の中身もほとんど空っぽで、唯一入っていたのはミネラルウォーターのペットボトルだけだった。
制服がハンガーにかかっているが、それ以外の服はダンボールの中に煩雑に入れられている。ごちゃごちゃとしたその中から、漸く生活感のようなものを感じられた。
「志々尾」
「……何だ」
「不便じゃね? さすがに物無さすぎるだろ」
合わせようとしていなかった目が一瞬だけ俺を見て、ふいと視線が外される。
「余計なものは邪魔なだけだ」
ひやりとした何かが背に通うような気がした。
「任務が解かれれば、」
物が有るか無いかというほんの少しの差があるだけで、今あるのと同じ寒々しさに満たされた部屋。容易に彼がいなくなった後のことが想像できて、ぞっとした。
――もう、聞きたくない。未だ続いている言葉に、耳を塞いでしまいたかった。
2006/01/28
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