「バカ入善、あんた死ぬ気なの?」
「バカとはなんだ、バカとは。死ぬ気なんてさらさらない」
「なら少しは体大切にするとか、怪我しないように気をつけるとかしなさいよ。傷膿むよ」
「…悪かったな」
「そう思うなら次からもっと早く来て頂戴」


そう毒づきながら目の前で俺の怪我を黙々と手当てする
銃弾による怪我に臆さないのは、もう慣れてしまったからなのだろう。









Dearest









「入善ってほんとに生傷絶えないわね。跡残るわよ」
「そういうこと気にしないだろ、普通」
「お生憎様。私は普通じゃ無いのよ」
「…っ痛、待て。流石にそれはきつい、緩めてくれ」
「はいはい」


俺の言い方が気に食わなかったのか、は包帯を明らかにきつく締め上げようとした。
言葉でそれを制すると、は渋々といった風でほんの少しだけ包帯を緩め、普通に巻いた。
折って捲くられたワイシャツの袖を元に戻してくれた。
薬箱を閉じ、はふっと溜息をついてカーテンの隙間から外を窺った。


「で、今日はちゃんと撒いてきたんでしょうね」
「ああ、前みたいな失態はもう犯さない」
「だといいけど」


過去に、追っ手を撒ききれずのところに来てしまい、二人一緒に死にそうになったことがある。
たった一度だけだったが、あの時は本当に寿命が縮まる思いだった。
命辛々と言う表現がしっくりくるほど、ぎりぎり生き延びることができた。
あの時ばかりは時の運に感謝である。


「入善と一緒にいると命がいくつあっても足りないわ」
「一回だけだろ、巻き込まれたのは」
「……」


急にが黙り込み、俺をじっと見た。
呆れたような、そんなような表情でじっと見られ、居心地が悪くなり思わず肩を揺らした。
の双眼が俺を見る。
何か非難されているような錯覚を覚えてしまうのは、何か俺に負い目があるからか?


「バカ入善」


最初にも同じように言われたが、何かニュアンスと含まれる言葉が違うように感じた。
さっきのは言葉に棘があったが、今の言葉に棘がないように感じられた。


「無傷なのか無事なのか命に関る怪我しないかとか、そういうこといつも心配してるの」


視線はこちらに向けず、でもいつもと変わらない声色では言った。


「来ない日は、今日は争いが無かったのか、怪我が無く無事だったのか、
 それとも、来れないほど酷い怪我をしたのかって不安になって、それに押し潰されそうになる」


の声がほんの少しだけ小さくなって聞こえる。
こんな言葉は、初めて聞いた。
の口からこんな言葉が聞けるだなんて思ってもみなかった。


「その次の日学校で元気そうな入善をみるとそこでやっと安心できるのよ」


そう言うの背中が、酷く小さく見えた。
は元々背が低く小さいほうだが、いつもよりも格段に小さく見えた。
初めて彼女の口から弱音を聞いたからかもしれない。
少し冷ましたお湯を急須に注いでいるのが見える。


がそこまで心配性だとは思わなかったな」
「そうさせるほどあんたの怪我が多すぎるのよ」


軽く茶化すように言葉を発すると、金属を叩いたかのようにすぐに返答が返ってくる。
さっきまでの弱々しさはもうの表面には無かった。
急須を持ってがこちらに歩みくる。


「そこにある湯飲み茶碗持ってきて頂戴」
「わかった」


テーブルの上に急須を置いて、クッションのあたりに楽そうに腰掛けるが目に入る。
俺は急須のすぐ隣に持ってきた湯飲みをおいてソファを借りて座った。
日本茶のいい香りがして、湯のみが差し出される。
いつものようにそれを頂く。



「何?」


じっと真面目な真っ直ぐな視線で見据えれば、少しがたじろいだ。
その様子に、少し安心しながら俺はに腕を伸ばしそっと頭を撫でた。
の狼狽する様子が、目と鼻の先に見える。


「ちょっと何してるのよ、私は子供じゃないわよ」
「あー、はいはい。ちょっと黙ってろ」


そう言うと、は渋々といった風で黙って頭を撫でられている。
顔が憮然としているのが見える。


「ありがとな、
「……」


細い髪がさらさらと心地好い。
俺を心配して酷く弱々しく見えたが、愛らしい。



だけは、絶対に失いたくない。
絶対に悲しませたくない。



この感情は、一体何?





2005/03/06
…富山入善氏の傷を手当てしたいなーなんて邪な願いから作った夢。
富山くんはやっぱりのと一筋でしょうか。
前半のほうが好きです。後半は…ちょっと微妙…かな。
怪我の手当てがしたかっただけなんです。

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