残酷な言葉で傷付けてよ。
 泣きたいの。泣いて泣いて、全てを忘れてしまいたい。
 ねえ。お願い、忘れさせてよ。
 泣きたいけど泣けないんだもん。泣かせて。ねえ忘れたいの。










Midnight blue










「――全くさあ、も誘うならもっと色気良く出来ないの?」
「…うっさいわね。誘われただけ良しとしなさいよ」


珍しく、の腕が絡みつく。…まるで縋るかのように。
明日は雨かな……なんて柄にも無いことを考えながら、をベッドに組み敷く。
軋んだ音が耳に飛び込む。


「……の、と……っ」


背中に鈍い痛み。…十中八九、の爪だ。
いつもだったらこんな風に縋ってこないのに。……どうした?
じわり。痛みは徐々に侵蝕していく。


「……
「んっ」


乱暴に鎖骨にくちづける。は嫌だとも言わずに、なく。
何時もと違うに、苛立ちともいえない何かを抱いて、首筋に噛み付いた。


「……痛っ」


が、目を瞑った。――強く強く。
その姿の輪郭がぼんやりと薄らぼやけて見える。どうしてか、目の前のが泣きたがっているように見えた。
そして思わず口許に嫌な笑みを浮かべた。いつもが嫌っていたあの笑みで、囁く。


「そんなに泣きたいなら、泣かしてあげるよ」


その言葉でだったのか何なのか、の縋る腕の力が少しだけ強くなった。


 * * 


 ――利用されただけ、かな……?


少しだけ赤くなった目尻を見つめつつ考える。
が嫌う煙草にライターで火を点け、深く吸い込む。
何かを曖昧にするなら、煙草が一番だ。このもやもやを、一緒に吐き出せそうな気がする。


 別に、利用されただけでも良いんだけどね。


火を点けたばかりの煙草を灰皿に押し付けて消す。
部屋に広がった薄煙はクーラーの風におされて、すぐに掻き消える。
指で、赤い目尻をそっとなぞった。


 ――何があったか知らないけど……。


どうしては泣きたいときに泣けないんだか。
こんな風にしないと泣けないなんて頑固にも程がある。
全く、「のとには弱味見せないから」と言ったのはどこの口だ。
その唇を、親指で辿った。


 ――まあ、泣くならここでだけにしといて。


なぞった目尻に、あまりしなれない優しい口付けをした。





2005/10/01
うーんと……。言い訳、必要ですか? しなければなりませんか?
でもとっても楽しく書かせて頂きましたー。うん満足。
裏とか、ヒロインさんに何があったかとかは考えてないです。ええ、きっと何かあったんですよ。
如何にこういうシーンを避けるかがテーマだったはずなんですけどねえ…。
うん。これはある種のパラレルなんです。ええきっとそうです。

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