こっちを向いて?











 西丸が放送部に入ったと聞いて、はじめに思ったのは「あがり症の癖によくそんな部活に入ったね」ということだった。楽しくやっていけるのかなあ、と少し心配もした。
 けれども、この写真を見る限り、きっと楽しくやれてるんだろうな。――バルヨナの放送部の面々(男子しかいない学校だって聞いてたのにかわいい幼女が写ってること、突っ込んでも良いのかな)が映った、楽しそうな写真。赤色のペンで色々文字が書き込まれている。西丸の、ちょっとだけ不器用で角張った右肩上がりの字じゃないから、誰かに書かれたんだろうな。
 写ってる人々みんなに、あだ名のようなものが書かれてる。西丸のところには、「ノマル」と勢いのある字で書かれていた。


「へー、西丸、『ノマル』って呼ばれてるんだ。かわいいね」
「そういうのは止めてくれ」


 はあ、と西丸は溜め息を吐いて、そのまま私の淹れたコーヒーを一口飲んだ。勘弁してくれと言うかのように、少しうらみったらしい視線で私を見つめてくる。私はそれをさっぱり無視して、写真をまだ見つめ続ける。


「これ書いたの、どの子?」


 文字を指差して、西丸に問う。西丸は少し眉を顰めて、「こいつ」と呟きながら、小柄で帽子をかぶった男の子を指差した。そこには『つこみ様や!』と書かれていた。思わず吹き出しそうになったのを飲み込みながら、言葉を続ける。


「へぇ……つこみちゃんかあ。可愛い子ね」
「ちゃん? あいつは『ちゃん』って柄じゃねえぞ?」
「そうなの? 小型犬みたいでかわいいのに」

 多分、西丸と私の感覚はちょっと違うからそう感じるんだろう。私には、活発そうな可愛い子にしか見えないよ。


「あ、この子も可愛い。カロ……猫みたいな名前ね」
「そうか?」
「うん。――あ、こっちの人もふわふわしてて良い人そう。すんき……?」
「……あ、ああ」


 可愛い人がいっぱいいるなあ。うん、ちょっと羨ましいかも、西丸。
 この髪の毛の一部でハートを描いてる人とか(なっちゃん、って書いてる。本名なんだろ? 私がそう呼ぶのは馴れ馴れしいし)、小さめでちょっとむすっとした顔の人とか(『かいちょ』って書いてあるけど、生徒会長さんとかかな。可愛い顔とは裏腹にすごい人?)、ホントかわいいひとばっか! 良いなー。バルヨナ羨ましいー。……行きたいとは思わないけど。


「いいなぁ、こんなに可愛い人たちと部活してるなんて」


 それに、私も西丸と一緒にこんな青春したいなあ、なんて思いながら呟く。と、こつんと西丸のおでこが私のおでこにぶつかった。まっすぐ、西丸と目が合う。真面目な色を宿した目が、私をじっと見つめていた。


「――なぁ、


 どきん、と。西丸の声に反応するみたいに、私の心臓がはねた。手から力が抜けて、写真がふわりと落ちる。


「折角ふたりきりなんだから、他の奴の話は無し、な――?」


 とびはねた心臓が、うるさい。おでこから伝わる温度と、聞きなれた声と、そっと近付く息遣いだけが、ここにあるかのように、感じた。





2006/08/24
こっそり西丸の日便乗作品でした! こそっとこそっと。
みんなを見ながら「可愛い可愛い」と言う幼馴染で彼女のヒロインさんに嫉妬しちゃうノマルさんのお話でした。
あああ! 西丸さんはかわいいなあ! げっへへへ。
名前変換しなかったら某サイトの管理人さんの名前に変換するようにしようかなあ、と思ったのはここを反転してるあなたと私だけの秘密ですよ!

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