それは、ほんの、軽い好奇心からだった。
ふわふわと躍る、長くて、細くて、繊細な髪。
まるで、雪みたいなそれ。
それに触れてしまえば、融けてしまいそうだと、思うほどに。
ストレンジネス
「…アルヴィス?」
柔らかい声が、少年の意識を戻した。
気付くと、少年の手は、少女の長い髪に触れていた。
「ああ、何でもない。驚かせて悪かった」
少年はそう言うと、すぐに手を放した。
少女は複雑そうな表情で少年を見ると右腕の細身のブレスレットに触れた。
ホーリーアーム、シュライングレイア。
望んだ自然物――草木や花、風などを出す事ができる。
諍うことで荒んだ心を癒す為に少女が錬金したARMだった。
少女の手元には、深い青紫色の菖蒲が乗っていた。
「信じていれば、きっと幸福がその先に待ってるよ」
そう言うと少女は穏かに笑んで、一房の菖蒲を少年に手渡した。
少年は菖蒲にそっと触れて、笑った。
「…ありがとう、」
「どう致しまして」
少女がARM彫金師であることは、あまり知られていない。
知っている人はごく少数である。
クロスガードにも、知っている人はごく僅かの二人しか存在しない。
他にその事を知っているのは魔女ドロシーぐらいだ。
それだけに、少女の創りだしたARMは効果が特殊で、術者を選り好みする。
少女は同じ物を二つとして作らない傾向にある。
そのため、少女のオリジナルARMはオンリーワンアイテムが多い。
「。そのARM…」
「え?」
「相変らず、無闇にARMを作ってるんだな」
「まあね。でも、これは凄く気に入ってるんだよ。上手く出来たの」
「それは、どういう効果があるんだ?」
「体力や呪いをではなく、精神的な癒しをもたらすARM。
ホーリーARMとして作ったつもりだったんだけど、出来てみればネイチャーARMっぽいよね」
「前に話してたあれか?」
「うん、そう」
呪いを消すだけが、体力の回復だけが、癒しじゃない。
――心や、精神を癒すのも、ホーリーARMの役目だよ。
それが、少女の言い分だった。
「自然物を見てるとさ、癒されるでしょ?だから作ったの」
「……らしいな」
少年の言葉を受けて、少女は微笑んだ。
ふわり、と風が吹いて、少女の髪がはらはらとなびいた。
少年に、さっきの触りたいと言う衝動が、また浮かんだ。
「暖かい風。…自然物はやっぱりリラクゼーション効果があるね」
そう言って振り向いた少女の髪を、少年は一房とってさらりと放した。
「アルヴィス?さっきも触ってたよね。どうしたの?」
「少し、黙っていてくれ」
「………………むう」
少年が、また髪を一房とって、さらりと指を放す。
細い少女の髪の毛の感覚が、柔らかくて、少年は髪を触るのに耽った。
不意に、少年の悪戯心が擽られ、一房の髪にそっと唇を寄せた。
「あ、あああ、アルヴィス…!?」
「の髪は、柔らかくて、優しいな」
「そう?ありがと、ってそうじゃなくって!」
「俺は好きだよ、の髪」
「……そうなの?」
少年は少女の問いに首肯した。
そして、少年はもう一度少女の髪に唇を寄せる。
はらはらと重力にしたがって落ちて行く髪、それに反射する西日。
少年は、少女の耳に唇を寄せて、小さく、囁いた。
「でも、髪よりも、が好きだよ。一番、ね」
2005/03/19
何を思ったのかMARのアルヴィス夢です。
見た目が烈火の薫ちゃんみたいな癖して、中身は烈火の水鏡みたい。
このギャップが大好きになる所以かしら?
自分の萌えに従いすぎたがために似非アルヴィスでごめんなさい。
ナナシもギンタもファントムも、ドロシーだって大好きです。
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