ど う か 、 こ の 幸 せ が









 特にやることもなくぼんやりしていた夜中。
 突然、(一応同居人の)が、とんでもないことを言い出した。


「ねえ限、一緒にお風呂入ろうか?」


 ――正直、飲んでもいない茶を噴き出すかと思った。


「ば……ッ! ちょ、何考えてんだよ!」
「別に良いじゃない。昔も一緒に入った仲でしょう?」


 なんてことはない。そうストレートに表現している顔できょとんと返してくる。
 こんなんだからお前は始末におえないんだ。全く、本当にお前は俺より年上なんだよな?
 思わず問い掛けそうになる自分がいる。
 本当に、何でこんな人を好きになってしまったのかと自問自答したくなる。


「……俺は、今は、中学生だ」
「そうだね。私も年齢的に高校生だし…で、それがどうしたの?」


 それがどうした、とくるか。
 普通そこで一緒に風呂入るなんて恥ずかしいよねーとか気付くだろ? ていうか、気付け!
 俺だって一応、(色々ちょっと違うけど)男な訳で。
 一人の女に恋してる、男なんだ。


「…お前、俺が何だか知ってるよな」


 そういう心を詰め込んで、できるだけ感情を抑えた声で問い掛ける。
 俺は妖混じりで、自分ではまだ力をコントロールしきれないといっても過言では無いから。


「限は限でしょう? それ以外に何だっていうの?」


 微笑んで返ってくる言葉は酷く心地良く、そして俺が最も欲するものだった。しかし、今はそういうことを言っている場合ではない。


「俺は一応妖混じりだぞ!? それなのに」
「関係ないじゃない、そんなこと。限は限よ。大切な私の弟分」


 弟分。その言葉はずしりとくる。男として見られていない。そのことの証明だから。
 に気付かれない程度に唇を噛んで、そして自分でも確めるかのようにゆっくりと言葉を吐いた。


「……そういうことじゃなくて、だからな」
「…もう、いいから早くはいろう」


 溜息混じりに立ち上がるに、このままで何もせずにいたら絶対に風呂に入れられると本能的に察知した。
 もしも、俺が耐え切れずにキれてしまったら、俺はこのままを確実に傷付けるだろう。――肉体的にも、精神的にも確実に。


「〜〜! 俺はもう寝るっ! 入るなら一人で入れ!」


 手近にあった座蒲団を投げつけ、ダッシュで蒲団に潜り込み頭まで蒲団を被る。


「痛っ。座蒲団投げつけなくても良いじゃない。……え、限、ほんとに寝るの? 明け方3時よー?」


 が俺のほうにゆっくり歩いてきて、そっと蒲団越しに俺を撫ぜる。


「ねえ、限ー?」


 そう呼びかけるの声と、蒲団越しに撫でられる感触が酷く心地良くて優しくて。
 俺は、そっと目を閉じ、いつかが、俺を弟分としてではなく男として扱ってくれるように、と祈った。





2005/12/10
HDDの大掃除中に出てきた限くん死亡を知らなかった時代に書いた夢。
アップするつもりはなかったのですが、まあ、過去の恥をさらしてみようかなと。
ヒロインは夜行の女の子。孤立がちだった限くんを猫可愛がりしてました。
同じく烏森に派遣されてきたので、限くんと同じ部屋に同居中。そんな設定。
体力的なものは亜十羅さんとよりちょっと下ぐらい。どんな能力かは決めてない…。
本当、彼の幸せが続いていてほしかった。哀しい。

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