どうせ、私はリエナちゃんがいない寂しさを紛らわせるためのもの。
要するに、私はグレイにとってオモチャとかそういうものでしかないってこと。

だからこれ以上私が惨めにならないように潔く別れよう。

終わりにしよう。

始まってすらいなかった関係を無かったことにしよう。


…終わりに、しよう。











エンドロール












私とグレイの関係はあるべきではなかった。
赦されない相容れない関係だったからとかそういう意味じゃなくて、結果論として。

ただ何と無しにグレイと成り行きで付き合って、抱き締めあったり慰め合ったり肌を重ねたりもした。
そのときだけは満ち足りても、それ以外のときは満たされなくて。
一人の夜が怖くても泣いて縋りつけるような関係ではなくて。

ただ時々会って話して抱きしめあって触れ合うだけの悲しい関係。

こんな関係は本当に嫌だ。


「グレイもう止めよう」
「どうした?用でもあるのか?」
「そうじゃない。――この関係を、終わらせよう」


日々平々凡々、ずるずると同じ関係を引き摺り続けていた私からの、変異をもたらす発言。
整ったぱりっとしたベッドの隅に三角座りをしてでも目だけはグレイを真っ直ぐ見て。
驚いたグレイの呆けた顔は、私は見慣れないものだった。


「…悪い冗談だな、睡眠足りないのか?」
「冗談は言わない。本気で言ってるの。別れて、グレイ」


そう言えばグレイの顔は呆れの表情になって、私にずいと寄る。
目線を外してしまえば、言い包められてしまいそうな気がして目なんて逸らさないで、グレイを見つめ続けた。
睨んでいた、といったほうが妥当かもしれないけれど。


「……
「グレイ止めて」
「いやだ」


グレイが私の髪を一房とってそっと口付ける。
前までの私はこれで有耶無耶になっていたけれど、今日は絶対に有耶無耶になんかしない。
…別れなければならないの。
これは、グレイのためなんて言わない。全部私のため。
自己中心的かもしれないけど、もう、終わらせねばならないの。


「グレイ、別れよう」
「嫌だ」
「…おねがい」
「――ダメだ」


いつもより格段に怒気を孕んでいて、それでいて妙に甘くて、イラついているような声だった。
グレイの腕が伸びてきて、ベッドに押し付けられた。


「止めて、…グレイ……」


グレイは、何も言ってくれなかった。
何も言わずに、服のボタンを外される。肌が曝されて肌寒いと感じた。
私を上から見下ろして、グレイは口の端を上げて笑った。優しい笑みとは違う、冷えた笑みだった。
緩々と顔が下りてくる。唇に、彼のその感触がした。
でも、それを感じる間も無くすぐにそれは深いものに変わってしまった。
解放して欲しくて、彼の胸板を強かに叩いたけれど、しばらく開放されなかった。

唇が解放されたと思えば、グレイの唇が首筋に移動して強く吸われる。
離れれば、そこには濃い朱の鬱血の痕が鎮座していた。
もう一度唇が首筋を吸う。


「あっ……――や…グレ、イ…やめて……っ!」


私の声は、グレイにとって何の意味も成さないようだった。
グレイは私の言葉を無視して、ボタンをもうひとつ外した。唇もそれに伴って下りてくる。
幾つもの赤い痕が、日に滅多に晒されないために白い肌に散る。


「お願、い……グレ、イ…止め…」
「…もう、俺じゃダメか?」


不意にグレイが痕を散らすのをやめた。
ううん、あなたがダメなんじゃないの。ただ私が弱いだけ。
グレイが負い目を感じる必要は無いよ、ただ私が勝手に別れようとしてるだけ。

ただ、私がこれ以上惨めにならないように予防線を張るだけ。


「俺じゃダメなのかよっ!?」
「――っ!」


急に、グレイの語気が荒くなる。
何がグレイにあったのかわからない私はただただ困惑するばかり。
私は返答が出来なくて、ただただ自分の上にいるグレイを見上げるだけしかできなかった。


「そうかよ」


忌々しいものを吐き捨てるかのようにグレイは言った。
グレイが私の上から退くと同時に、私はベッドから立ち上がると、扉へと歩いた。
ドアノブに手をかけ、最後に振り向いて言う。

二人の最後の言葉。




「…グレイのこと、嫌いじゃなかったよ。ばいばい」




扉が閉じる音が酷くリアルに耳に響く。
咽喉の奥がきゅうとして、目の周りが熱くなる。

嗚咽が洩れることが嫌で唇を噛んで堪え、走った。



ばいばい、グレイ。




2005/03/11
女誑しなグレイが書きたかったんです。
バトビーで切なくするならグレイが一番ですね。
シスコン相手は話が膨らみやすくていいです。(ちょっと偏見)
いや、でもこういう話を書くのは好きです。

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