浦々とした昼下がりをごろごろと過ごす。










犬も一応肉食獣











響く、本のページを捲る音。
静かな部屋にその音は予想外に大きく響いた。

つこみはが本を読んでいるからしばらく沈黙を守ろうとした。
しかし彼は騒々しさの申し子だ。黙って座っているなんて行儀の良いことが出来るわけもない。
5分と持たず、つこみは整えていた脚を崩し、に話し掛け始めた。


「なー俺構ってー」
「あと1時間半…いや1時間待って」
「いややー。今すぐ構ってやー」
「つこウルサイ」


に冷たく突っ撥ねられ、つこみは唇を尖らせて不機嫌そうに言う。
不機嫌そうに色々と言われる言葉を軽くいなしては悠々と本を読んでいた。


「なー俺暇なんやけど」
「本でも読めば」
「嫌やあんなん、寝たあなる」
「…ならいっそ寝ちゃいなさい。暇とか感じないわよきっと」


はそう言ったのを最後に本の世界に意識を飛ばした。
つこみが何を言おうが反応すらせずに黙々と本を読みすすめる。

つこみがつまらなそうな表情をしたのも束の間、その顔が悪戯っ子みたいな生き生きした少年のような顔に変わった。

そして、腕を伸ばしたかと思えばその手を首の後ろに回して抱き寄せ少し不器用に口付けた。



「…
「――――――」
?」
「………」
「いや、確かにオレは勝手にキスしてもうたけどな、でも…」


話し掛けても、の返答が無くて、つこみは困惑してしまった。
聞かれてもいないのに自己弁護して言い訳を言っている。

ふっと、優しくてふんわりとした感覚が、まだ腕に残っている気がした。
の温かさを思い出して、つこみは顔を赤く染めた。


「あれは決して出来心や無かったんやで?いや、あの無かったちゅうたら嘘なるけどな」
「……」
?」


いい加減返事をしないに痺れを切らしたのか、耐え切れなくなったのかつこみはの顔を覗き込んだ。

赤く染まったの顔が、そこにあった。
つこみと目が合った瞬間、は糸に引っ張られてるかのように高速で後退した。
しかし、すぐ後ろにソファがあって動きを遮られる。


「つこみの、ばかーっ!」


の声が響く。
火照る頬、潤んだ瞳で凄むが、あまり迫力はない。
つこみは、思わず可笑しくなって笑い始めた。


「ばかつこみ!私の貞操返せ!」
「ひ、人聞き悪ぅ言うなや。そもそも貞操は奪ってないやろ!」
「貞操は、ですって。て・い・そ・う・は!他のもんは奪ったって言うの?私の純情返せ!」
「言葉の綾やんか!それにお前端から純情なんてあらへんやろ!」
「バカ言うんじゃないわよ、女の子は何歳になっても純情なの!」


何故か口論になってしまった。――つこみはしみじみと考え込んだ。
まだ赤いままの頬は、酷く柔らかそうでしっとりとしていそうだった。
潤んだ瞳は、黒曜石のように綺麗だった。


「…まさか、恥ずかしかったなんて言うんか?」
「――っ」
「…え、図星やった?」
「悪かったわね!つこみにキスされるなんて思ってもみなかったのよ!」


「もう帰るー!」と捨て台詞を残してがダッシュで退出した。
ふわ、と髪が翻って甘いシャンプーの香りがつこみの鼻腔をくすぐる。


つこみはぼんやりと己の唇に触れた。
まだ、の柔らかい唇の感覚が残っているような気がして、つこみは少しだけ笑みを深めた。




己の気持ちに気付いた日のこと。





2005/04/18
…えへ。つこみのまともな恋愛いうか、なんと言うか。
本当はこのネタ(キスの辺り)はみなちょんで書こうかと思っていたのですが…
前後が思いつかなかったので、思いついたつこちゃんで。
…タイトルはテキトーです。気になさらないで下さい。
でも、そうだと思うんですけどね。飼い犬も飼い主噛むんですよ…!
あああ。とっても激しく痛いですよね、犬に噛まれると。

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