「……隆也、ごめん。背中大丈夫?」
そっと、背中に残された爪痕に指を這わせて問い掛ける。私が自分を保とうとして、強く縋った痕跡。私の首筋やらに残された痕にも似たもの。がっしりしている広い背中に、私がつけてしまった痕。
「別に平気」
本当? と返しながら、赤い爪痕に、そうっと撫でるように触れると、隆也の肩がびくりと震えた。
「あ。ホントは痛いんだ」
「別に、痛くない」
「でも、今、びくって」
「……お前が触ったからだよ」
「――?」
首を傾げながらも、爪痕をじっと見つめていた。私は滅多に痕を付けたりしないから、これぐらいしか隆也の肌に残るものがない。痛みを伴う痕跡だ、と、思う。
少しだけ隆起している、痛々しい紅い傷。なんとなく私はそれに口付けた。また、隆也の肩がはねる。
「」
「ん?」
「それは、狙ってんのか?」
「……どれを?」
隆也を見上げて、言葉に返事した。振り向いて、そして私を呆れたような顔で見下ろして、隆也は溜息を吐いた。
「……」
「え――?」
視界が、ぐるりと変化した。視界いっぱいに広がってた隆也の背中から一転して、視界を占めるは薄暗い天井。背に柔らかなベッドの感覚。微かなスプリングが軋む音が耳に響いた。
「た、隆也……?」
「もう少し自分の行動に責任持て」
「責任って……」
私が隆也の背にしたみたいな、甘くて優しいキスが首に落ちてきて、私はそっと目を閉じた。ふ、と、首筋に隆也の熱っぽい吐息が感じられて、なんだかくすぐったくてこそばゆい。
「が、煽ったんだからな?」
甘い、くちづけの音がした。
痕にくちづけ
それはまるで契約にも似た。
2006/09/17