ふと、目が覚めた。空はほんの少しだけ明るくなっていて、まだ日が昇りきっていないことはカーテンを閉めたままでもわかる。今日はめずらしく野球部もないんだし、もう少しぐらい長く寝たっていいのにな、と、自分の体ながら苦笑が浮かぶ。呆れて軽く溜め息を吐くと、音が聞こえたのか、となりで寝ていたが、「ぅ……ん」と、小さく身動ぎした。やべ、起こしちまったか……? とを覗き込んだけれど、彼女は身動ぎしただけで、起きたわけではないようだった。
 くう、と、幸せそうな顔で眠るを見下ろす。薄暗い部屋の中でもわかるぐらい白い肌。丸みを帯びた肩。男とは全く違うのだ、と、ありありとわかる。――本当に、同じいきものなのか、不安になる。すう、と呼吸のたびに揺れる白い咽喉を見ていると、どきりとした。
 ほんの少しだけ視線を動かすと、自分がつけたばかりの赤い痕が見えて、思わず赤面した。――後から改めて見ると、何だか気恥ずかしい。付けてたときは、そう気にしてたわけじゃないけど……。された側はこの痕が消えるまではこんな思いすんのかな、とか思ってみたり。そっと首筋のその痕に指を触れてみた。あ、なんかさっき以上に恥ずかしい。何で俺、こんなことしてんだ?
 ん、とまたが身じろぐ。そして、緩々とまぶたが押し開けられた。まだ覚醒しきってない、ほんの少しだけ虚ろな目が俺を見上げてくる。

「あ、わり……起きちまったか」
「ん……」

 大丈夫、というようにが首を振る。

「……ずさ、」

 掠れた声のあと、けほけほっと咳き込んだを見下ろす。咳を数回繰り返してるの頭をそっと撫でながら問い掛ける。

「声、出ないのか?」
「ん……」
「何か飲むか?」

 がこくりと頷いたので、俺は立ち上がって、部屋から出た。階段を下りて台所の冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぐ。それを持っていく最中に、自分も少し咽喉が渇いていたことに気付いたので、お茶を一口だけ拝借した。

、飲めるか?」
「……ぅん、へい、き」

 身体を起こそうとするに手を貸してやる。の手にコップがしっかり持たれたことを確認して、俺は背中に手を添える。ひとくちふたくち、お茶を飲んだ辺りでがぽつりと呟いた。

「梓は、平気?」
「は?」
「ノド、渇いてない?」
「大丈夫、さっき飲んだし。俺、ほど声出してないし」

 一瞬納得しかけただったが、一瞬で顔を真っ赤にして、「ちょっ、そ、そういうこと言うのは禁止!」と俺の肩を本当に軽く、叩いた。肩を叩くために身体を伸ばしたのほうがダメージがでかかったぐらいだ。「あ、こしいたい……」とだけ言って、はベッドに塞ぎこんだ。

「だいじょうぶか?」
「……ちょっと」

 涙目で俺を見上げてくるの頭を、またそうっと撫でてやる。は目を細めて、「梓の手って、おっきくて優しくて、大好き」と、ひどく楽しそうに呟いた。
 次は、俺が真っ赤になった。




正しい朝の起こし方

愛しむように、そっと触れて。



2006/08/09