「爪の保護に、ねぇ」
――だからって、よくまあこんなにも持ってきたね、モモカンも。とちゃんは指の先でマニキュアの瓶を突付いた。ダルマのように、一瞬倒れかけてもすとんと元に戻るカラフルな瓶。
「チェリーピンクにパッションオレンジ、ワインレッドにブラックもある……」
純真無垢な天然野球少年の廉にこの配色はどうなんだろう。と苦笑しながら、ちゃんは7つあるマニキュアの瓶をひとつひとつ持ち上げて見つめたりしていた。
そして、透明な液の入った瓶を掴むと、むんずと俺の手 も、掴んで、数回、爪を撫でた。
かあ、っと、顔に全身の 血液が集るような、感覚。すごい、真っ赤になってる と 思う。
「ま、廉が付けるなら、透明のやつよね」
「……あ、あ、、ちゃ、」
「爪割れないように塗るんでしょ?」
「え、あ……うん、」
俺がたどたどしく返事をすると、ちゃんはその透明な瓶を開けて、俺のほうをじっと見た。その視線と目を合わせるのが怖くて、俺は目を逸らした。
――全てを見透かすような、こげ茶色の目が、俺の気持ちを読んでしまうのが、怖かった。
「塗らせてね」
俺の返事を待たないで、ひやり そして どろりと した ものが、俺の爪を辿る。ちゃんの手に持たれた手が熱くなる。爪を辿る透明が、酷く冷たい氷みたいに感じる。
爪の上を辿ってくのが少しくすぐったい。
「廉の手って、努力してる人の手だね」
「……えっ!?」
「ささくれてるし、肉刺とかいっぱいあるし。……頑張ってんだなー、ってわかるよ」
そう言って、ちゃんは、笑う。
ちゃんはあったかくて、優しくい言葉を、俺にくれる。こんなにダメな俺に、いつも。どうして、ちゃんは、俺が欲しい言葉を、こんなふうに簡単にくれるんだろう。
「私も、廉に負けないくらい、頑張るから」
だから行こうね――廉がいれば、絶対行ける。
ゆっくり、けれど、とても強さと荘厳さを以って、ちゃんが、静かに言う。
触れているから、だろう、か?
指が、 熱い。
熱る指、それは
キミへの想い、なのだろうか。
2006/06/09