車に荷物――といっても、ほんのちょっとの着替えと、歯ブラシ洗顔道具と、試験前にチェックしたかった教科書類といった軽いものだけなんだけど――を乗せて、家を出発する。向こうに着いたら自己採点以外に、他に何かしなきゃならないことあったかな? ……特に思い当たらないから、向こうに着いてから考えれば良いか。
私のとなりに座っていたはずの廉は、何時の間にやら寝てしまっていた。私の肩に頭を凭れて、ぐっすりと眠りの国の中に出掛けている。
お母さんが、バックミラー越しに寝ている廉(と、私も?)を見て苦笑した。私はどう反応すれば良いのかよくわかんなかったので、ぼんやり窓の外を見つめた。
特に考えることもないし、車の中で本や携帯を見ていると酔いそうだったので、目を瞑っていた。廉みたいに寝ちゃうのも楽かなあ、と思ったのだ。
車内に流れる音楽に耳を傾けながら目を瞑っていると、車体が傾いて、体が滑りそうになる。――曲がり角かあ、と思ってそっとまぶたをひらいたのと同時に、廉の頭がぐらりと私の膝の上に落ちてきた。とすん、と軽い衝撃音。あ、起きちゃったかなぁ……? と思って顔を覗き込んだけど、すうすうと整った寝息だけが聞こえてきて、ある意味感心した。
「……起きないんだ」
思わず笑って、廉の頬っぺたを突付いた。
* *
「お母さん、ありがとー」
荷物を車からおろしながら、車内のお母さんにお礼を告げる。廉も、「あり、がと……」と、まだ半分ぐらい眠たげな目でお礼を言っていた。お母さんは「はいはい、どういたしまして」と笑って返す。お母さんは「ちょっと用事があるから寄らないけど、義姉さんによろしく言っといてね」と私に伝えて、埼玉へと戻っていった。
玄関の戸を押し開けながら、
「ただいま帰りましたー」
「た、だい、ま……」
中に向かってそう声を掛ける(もし中に誰もいなくてもそうしたほうがいいらしい。空き巣対策なんだそうだ)。そして、玄関にかばんをとすんと下ろして靴を脱ぐ。
靴を脱ぎ終わって、ひょいとかばんを拾い上げてフローリングの床を歩き出したところで、居間に繋がってる扉がばっと開いた。その扉から飛び出てきたルリが、ぱたぱたとこちらに駆け寄ってきた。
「おかえり、、レンレン! 入試どうだった?」
「んー。まあまあ?」
ぱたぱたと手を振って笑う。すると、ルリは「そりゃ、はそうでしょ?」と言って、廉のほうを見た。廉が一歩あとじさった。
「レンレンは、どーだったの?」
「……レンレンてゆーな……」
「あらら」
廉はそれだけ返すと、しゅうん、と俯いた。おやおや、と、思いながらぽすぽすっと廉の肩を叩く。こっちを見上げてきた廉に、鞄を部屋に持っていこうとジェスチャーで伝えた。廉は「ん、」と頷いて、とてとてと鞄を持って階段を上ってく。私もその後を追って階段を上った。
ただいま、おかえり
私のもうひとつの家。
2006/08/10