入試から一週間経って、卒業式まであと三日と迫ってる。する必要あるのかなあ、なんて思う卒業式練習だけをみんなでやって、午後に差し掛かる頃には家へと帰される。卒業式練習のためだけに制服を着て学校に通ってるのか、と思うと少し面倒だよね。自由登校にしてくれれば良いのに――と、今となりを歩いているルリに言ったら、「って意外と横着がりだね」と笑われた。結構本気だったんだけどなあ。
もう三月なのに雪が降ってる道を、ルリと「寒い寒い」と言い合いながら歩く。買い食いでもしちゃおうか? いや、でも太っちゃうからやめようか? と話して、結局コンビニで肉まんを購入した。ふたりとも。もふもふ、ふたりで肉まんを食べながら歩いてると、ルリがぽつりと私に声を掛けた。
「もうすぐ合格発表だよね、の」
「うん。そろそろ郵送されてくると思うよ」
……まあ、たぶん、だけど。そう付け加えて、ラスト一口になった某コンビニのスペシャル肉饅頭200円をひょいと口に放り込む。うん、美味しかった。リーズナブルな割に、量が多かったから万々歳。
「それに、もうすぐ卒業式だよね」
「そうだね」
「ちょっとだけ、淋しいかな」
呟くように言って、ルリはラスト一口の肉まんをごくりと飲み込んだ。吐いた息が、真っ白に染まってふわふわと空気に融けてく。
「私も淋しいけど――、でも、離れたって人間の縁って切れないよ」
だからさ、大丈夫だと思うよ。携帯電話っていう便利なものもあるんだし、連絡はすぐに取れるでしょ?
そう告げると、ルリは一瞬だけ驚いた顔をして、だけどへにゃりとどこか砕けたように笑った。そして「うん、そうだよね!」と言った。――家の壁が、見えてきた。
「ただいまー」
「ただいま帰りましたー」
「あら、お帰りなさい」
家に帰ると、おばさんが迎えてくれた。おお、なんか、いつもより声が楽しそうだ。何があったんだろうと思いながらコートを脱ぐと、ひとつ、茶封筒を押し付けられた。宛て名……は、三橋。勿論私だ。どこから送られてきたのかなぁ、と、封筒を裏返すと、そこに書かれていた文字は――西浦高校。
「ああ! 合否通知か……じゃあ、廉の分も届いてるんですか?」
「ええ、ちゃんと届いてるわよー。見てないけどねぇ」
封筒を開く。ちょっとだけ怖いけれど、中にはいってた三つ折りの白い紙を、そっと開く。中には、確かに――合格、と書かれていた。
「……どう、だった?」
「ん、合格ー」
「本当!? よかったぁ……おめでと、!」
ルリが心底安心したように呟く。おばさんも「おめでとう」と言ってくれた。私はルリがまるで自分のことのように心配してくれてたことが嬉しくて、「ありがとう」とだけしか返せなかったけれど。
あとは廉が受かってることを確認するだけだ。
「え、と……ただ、いま」
――と、思うのと同時に、がちゃり、と、居間の戸が開く音がして、廉の声が聞こえてきた。
「お帰り」
「お帰りなさい」
「お帰りー、廉。合否通知きてるって」
「あ、はい」
「えっ、あ……」
震える手で廉が封筒の封を切ろうとする。ほんの少し、指先が震えてる。あ、封筒がよれた。中から白い紙を取り出して、畳まれたそれを廉がゆっくりと開く。それに視線を滑らせるのとほぼ同時、廉の目がじわりと涙が溢れ出した。
「あ……あ、う」
「レンレン!? ま、まさか――」
ぶわっと泣き出した廉の手の中の紙を、盗み見る。それは私の元に届けられたのとほぼ同じ。――不合格とは何所にも書いてなくて。
「お、お、おれ……ごうかく……!」
「心臓に悪いじゃない! もう、おめでと、レンレン」
「おめでとう」
「――おめでとう、廉」
「あ、ありがと! えと、は――?」
俺が受かってるなら、たぶん大丈夫、だけ、ど……と俯いた廉に、「大丈夫、受かったから」と笑いかけると、廉はぱっと顔を上げて、
「も、おめで、と、う!」
と、ひどく喜んだ様子で言った。私も笑顔で返答する。
「うん、ありがとう!」
茶封筒の中に
入ったたったひとつの言葉が、未来を決める。
2006/08/13